2026年7月23日、日本中央競馬会(JRA)は今年3月20日に競馬の公正確保の上で”重大な非行”があったと発表していた橋木太希(はしきたいき、20歳)騎手について、裁定委員会で決定された処分の内容を公表した。
処分内容は、2026年3月21日から2027年3月20日までの1年間騎乗停止。
【参考リンク】JRAホームページ「騎手 橋木 太希に対する処分」
騎手の軽微な違反(斜行など)は裁決委員(JRA職員)が処分を下すが、長期の騎乗停止など重大な案件は裁定委員会で審議されたのちに処分が決定される。今回は、その裁定委員会で1年間という異例の長さの騎乗停止が決まったわけだ。
“重大な非行”の内容については、橋木騎手が当時20歳未満だったことから非公表となっていた。
ネット上では”重大な非行”の内容について考察したり勝手な憶測を流したりする人々がワラワラと湧いていたが、この問題の本質はそこなのか?
例えば、2024年に調整ルームへのスマホの持ち込みが見つかった小林勝太元騎手(現在は調教助手)が同様に1年間の騎乗停止処分となったが、小林元騎手が虚偽の証言を行うなど悪質性や本人の態度を問題視しての処分内容だとJRA側は説明している。
要するに、同じように見える違反内容であってもその”質”によって処分の内容も変化するわけである。だから、どんなに”重大な非行”の内容を考えたところでその可能性は無限にあるわけで、全くといっていいほど無駄な作業といえる。それが楽しみなら勝手にやればいいが、SNSで注目を集めるためだけに誹謗中傷を拡散することはやめるべきだ。
それよりも、私は非公表の理由を「20歳未満だから」としている点にひっかかった。
そもそも、民法上の成年(成人)年齢は18歳に引き下げられていて、騎手であろと誰であろうと18歳になれば大人の仲間入りをするわけである。その時点で親が面倒を見る対象から外れて、独立した一人の人間として様々な権利を行使できるようになる。酒やたばこ、ギャンブルは20歳になるまでは禁止だが、仕事をしたりモノを買ったり売ったり自由にできる。
騎手という特殊な仕事であっても、19歳の橋木騎手と57歳の武豊騎手でやれることに根本的な違いはない。若くて経験の浅い騎手が厩舎への所属を強制されたり、減量などの特権が与えられたりするのは、早く騎手としての経験を積んで一人前になるための制度であって、20歳未満だから、という理由ではないはずだ。
推察するに、「20歳未満」の趣旨は少年法から引っ張ってきた考え方ではないか。
少年法では、18歳と19歳を「特定少年」と位置付けていて、少年(17歳以下)と大人(20歳以上)の中間的な存在として、基本的には少年と同じように保護するが、重大な事件では大人と同じように刑事罰が与えられるような規定になっている。さらに、18歳や19歳で起訴された場合には、実名報道が解禁される(略式命令は除く)。
橋木騎手の”重大な非行”がいつ発生したのかについては公表されていないが、仮に本人が19歳だったとすれば、少年法上の「特定少年」にあたる年齢なわけで、少年法の趣旨に則って橋木騎手を保護するために非公表とした可能性が考えられる。起訴されるような刑事事件であれば、JRAも詳細を公表していたのだろうか。
ただ、いずれにしても、橋木騎手についてはあくまで競馬法上の処分であって、刑法や少年法に基づく処分ではない。競馬法上の非行と刑法上の非行を同じように扱うことが妥当かどうかは、そもそも非行の内容や非公表とした具体的な経緯を知らない限り、我々は議論できない。
何かブラックボックスのようなものに包まれた感のある今回の処分。
繰り返しになるが、19歳であろうと20歳以上であろうと騎手が背負う責任は変わらないのであって、刑事事件は別として、競馬の公正を確保するための様々なルールに違反した場合に、20歳未満は公表しないというのは、他の騎手は納得できるのであろうか。
さらに大事なことは、騎手は未成年の状態で親元を離れて競馬学校(JRA)に預けられ、少なくとも3年間は寮生活をしながら競馬と社会について学んでいるわけである。
未成年の騎手が犯してしまった社会的な失敗や非行は誰の責任か?親?JRA?同僚?先輩?それとも、騎手本人が一人で背負うものなのか?
JRAは、騎手本人の責任と考えているのであれば内容を公表しているはずだ。今回の処分は、競馬学校の責任をJRA自ら認めた形になったと思うのだ。