ついに今年のJRAの全レースが終わりましたね。皆さんはどんなレースや馬、人が記憶に残っていますか?
私は、リバティアイランドが3冠を達成した秋華賞と、イクイノックスの引退レースになったジャパンカップが一番感動しました。先週の有馬記念もそれに負けないくらい感動したレースでしたけどね。
さて、今回は今年最後のGⅠレース、ホープフルステークスの回顧をします。
なんと本命視されていた好素質馬ゴンバデカーブースが感冒(感染症)のために直前で出走取消となってしまい、残念な状況でしたが、なかなか見ごたえのあるレースになりました。
さらに、このレースで2着に敗れたシンエンペラーについて取り上げます。凱旋門賞馬の全弟という超良血馬は来年のクラシックでどこまで活躍するのでしょうか?
レース展開
2歳GⅠらしくバラバラっとしたスタート。13番レガレイラもやや出遅れ気味でした。
内枠を生かして2番ヴェロキラプトルと3番アンモシエラが勢いよく飛び出して先行争いをする中、6番シンエンペラーは五分のスタートから好位につけました。
レガレイラのルメール騎手は腹をくくって後方からの競馬を選択。このあたりは馬の状態や気持ちを優先するルメール騎手らしい騎乗だったかと思います。
正面スタンド前の先行争いの結果、2番ヴェロキラプトルがハナを奪いました。しかし、3番アンモシエラがぴったり直後につけています。
5番サンライズジパングと6番シンエンペラーが3番手集団を形成。これに外からかかり気味の11番ショウナンラプンタ、16番センチュリボンド、さらにスタートを決めた15番ウインマクシマムがからんで先団グループとなりました。
13番レガレイラは後方3番手でしっかり折り合っていました。
2番ヴェロキラプトルが引っ張る展開で向正面のバックストレッチに入ると、ややペースが落ち着いて11番ショウナンラプンタと6番シンエンペラーが先頭近くまでポジションを上げました。
前半1,000mは60秒ちょうど。平均ペースといっていいでしょう。
すると、後方3番手にいた13番レガレイラが馬と馬の間をスルスルと抜けて中団までポジションを上げていきます。ペース判断と勝負どころでの大胆な仕掛けは、さすがルメール騎手ですね。
3~4コーナーで早くも3番アンモシエラが一杯になり、逃げた2番ヴェロキラプトルの逃げ脚も鈍ってきたところで馬群がギュッと固まりました。
ここで、先団で折り合っていた5番サンライズジパングが外から先頭集団に並びかけ、6番シンエンペラーはインコースから早くもヴェロキラプトルを捉えて先頭に立つ勢いです。
13番レガレイラは中団の馬群の中にいましたが、バテた馬たちをスルリと交わしてさらにポジションを上げていきました。
4コーナーで9番タリフラインが故障発生で競走を中止(残念ながら予後不良で安楽死)。
ここで6番シンエンペラーが2番ヴェロキラプトルを交わして一気に先頭に立ちました。
後続は、外から11番ショウナンラプンタ、5番サンライズジパング、15番ウインマクシマムが、馬群の中から10番シリウスコルト、4番アドミラルシップ、18番ミスタージーティーがシンエンペラーを追いかけます。
13番レガレイラは直線入口で一気に大外に出すと、他馬を凌駕する末脚で一気の追い込み。
6番シンエンペラーが他馬を突き放して先頭で粘る中、大外からもの凄い脚で迫る13番レガレイラ。
外からはなんと13番人気の5番サンライズジパングもレガレイラと一緒に追い込んできます。
ドイル騎手に導かれて4番アドミラルシップがインから伸びてこようとしますが、その後ろあたりで前が壁になって詰まっていたのが18番ミスタージーティー。
坂をかけあがって残り100mになったところで、ムルザバエフ騎手の右ムチを受けたシンエンペラーが急に外に膨れて(斜行)、大外から2番手に上がってきたレガレイラにぶつかります。そのアオリをくらって、レガレイラと一緒に上がってきていたサンライズジパングは進路を失って少し下がってしまいました。
しかし、レガレイラと馬体を合わせたシンエンペラーは、一気に勢いを失うかと思いきや、なんと二の脚をつかってさらにグッと伸びました。
それでも、伸び脚が勝っていたレガレイラがシンエンペラーを楽に交わして4分の3馬身差でゴール。
シンエンペラーが2着に粘り、不利を受けたサンライズジパングが大健闘の3着。
アドミラルシップが4着に入ってこれも大健闘。前が壁になって詰まっていたミスタージーティーは最後にようやく前が開いて脚を残した状態で5着に入りました。
3番人気に推されていた11番ショウナンラプンタは終始かかっていたのが響いたのか、伸びを欠いて7着に終わりました。
レース映像はこちらをご覧ください。
各馬の評価と今後
勝ったレガレイラは今回出走した馬の中で唯一の牝馬。新馬戦での走りを評価していた馬ですが(以下に参考記事)、前走はリステッドのアイビーステークスで3着に敗れていたので、ここまで強い競馬を見せるとは思いませんでした。
来年は牡馬クラシックを進むようです。同じサンデーレーシングの2歳牝馬には阪神ジュベナイルフィリーズを勝ったアスコリピチェーノやアルテミスステークスを勝ったチェルヴィニア(レガレイラとは木村厩舎で一緒)もいますし、このレースぶりを見たらうなずけますね。当然、皐月賞の有力候補ですが、アイビーステークスでこの馬に完勝したダノンエアズロックもいますし・・・まだわかりません。
3着のサンライズジパングはダート馬だと思っていましたが、まさかの大激走。前走のカトレアステークス(ダート1,600m)で惨敗したので「あれっ?」と思いましたが、こんな引き出しがあったとは。キズナ産駒なので芝でもいけるかもしれませんが、もしかすると距離適性が合っていたのかもしれませんね。
4着のアドミラルシップは昨年エリザベス女王杯2着のライラックの半弟。新馬戦を勝ったばかりでしたが、素質があることを示しました。そしてドイル騎手の好騎乗も光りました。クラシックに出るには賞金が足りませんので、そこが課題です。
5着のミスタージーティーも新馬戦勝ちからここへ出走しましたが、何より前が壁になったのが痛かった。これは坂井騎手も認めていましたし、管理する矢作調教師も露骨にこの騎乗を批判していました。19’菊花賞2着のサトノルークスの半弟でドゥラメンテ産駒ということで、クラシックの匂いがする馬ですが、やはり賞金加算が課題です。
シンエンペラーのとてつもない魅力
そして、惜しくも2着に敗れたシンエンペラー。ゴンバデカーブースの出走取消で1強になったかと思いきや、牝馬のレガレイラに足をすくわれました。
しかし、私はシンエンペラーにとてつもない魅力を感じます。
前走の京都2歳ステークスでギリギリ差し切った競馬もなかなかだと思いましたが、今回のレースはビックリ。そう、レガレイラに並びかけられたあとのグイっともうひと伸びした勝負根性と脚力です。私はその姿に思わず「ゾクッ」としてしまいました。
斜行はいただけませんが、あの勝負根性と伸びは、大げさではなく往年のオグリキャップを思い出しました。
参考までにオグリキャップの勝負根性が見られるレースを映像でどうぞ。
シンエンペラーは全兄ソットサスに似ているが素質は測れない
シンエンペラーは2020年の凱旋門賞を勝ったソットサス(Sottsass)の全弟。
ちなみに、その凱旋門賞の映像はこちら。緑と黄緑の勝負服がソットサスです。
よく言われるように、全弟(父も母も同じ弟)であれ全妹(父も母も同じ妹)であれ、血統が同じなら兄や姉と同じ能力を持って生まれるかというと、必ずしもそうではありません。人間でも、兄弟で体格、身体能力、性格がまったく違うということはありますよね?
父と母のどの形質(遺伝子)を受け継ぐかは、ある意味「ガチャ」みたいなものです。
ちなみ、こちらがシンエンペラー(ソットサス)の5代血統表です。
少なくともシンエンペラーはここまでの競走成績を見れば、兄と同じかどうかは別として、競走馬としての優れた素質を受け継いでいることは間違いありません。では、凱旋門賞を勝てるほどの素質はあるのか?
結論は、「シンエンペラーはソットサスと似ているが、同じほどの素質があるかは測れない」です。
見た目(馬体)はまあまあ似ている
まずは馬体を見比べてみます。
馬齢や馬体の完成度が違うことは前提として写真を比較しました。
まず、ソットサスの写真です。
次にシンエンペラーの写真です。
同じ栗毛ということもあって、一見そっくりに見えます。実際は、ソットサスのほうが圧倒的に筋肉ムキムキで迫力があります(光の当たり方もあるかもしれませんが)。
しかし、シンエンペラーの方も特にトモ(後脚)の筋肉の付き方が素晴らしく、この脚力があの直線の坂を上ったあとのひと伸びにつながったのかもしれません。
キレよりも粘り強さを武器にしているところは似ている
見た目よりも2頭が似ているのは、末脚のキレはないけど、他馬と一緒に並んで粘り強く伸びるところでしょう。
ソットサスは上で紹介した凱旋門賞もそうでしたし、2020年の仏GⅠガネー賞でもまさにその粘り強さを見せています。以下がそのレース映像です。
一方シンエンペラーも、ホープフルステークスのラスト100mで見せたような粘り強さがあり、さらに前走の京都2歳ステークスでも「届くか?」というような行きっぷりから他馬と並んだ瞬間にグイっと伸びて差し切っています。以下がそのレース映像です。
シンエンペラーの課題は、今回のホープフルステークスでわかりましたが、1頭で抜け出したときに気を抜いていしまう(いわゆる「ソラを使う」)ことです。ソットサスとの違いでもあります。この点は今後の成長で克服してほしいと思います。
もう1つ。シンエンペラーの走っているときの首が高いことが気になります。このあたり、陣営がどう考えるかですが、シャドーロールをつけて矯正する(シャドーロールで下が見えにくくなると首が自然に下がる)か、成長とともにリラックスして走れるようになるか。
ソットサスのようになるには、もう少し時間と成長が必要かもしれません。
素質を図ることはできないが、シンエンペラーには期待してしまう
なんだか煮え切らない内容になりましたが、一つ言えることは「シンエンペラーの秘めた素質には期待してしまう」ということです。
レガレイラは確かに強かったし、ルメール騎手とあんな競馬を見せられたら「クラシックはこの馬で決まり」と思わざるをえないのですが、シンエンペラーにはそれ以上にワクワク感とスケールの大きさを覚えるのです。
シュトラウスもそうですが、未熟なところとスケールの大きさというのを併せ持った馬なのかもしれません。
私は、来年の牡馬クラシックはレガレイラに加えて、シュトラウス、シンエンペラー、ダノンエアズロックが主役候補だと思っています。
ゴンバデカーブースは正直まだ未知数です。果たしてブリックスアンドモルタル産駒の成長力はどこまであるのでしょうか?
今年のホープフルステークスは、いろいろな意味で来年のクラシックを楽しみにしてくれるレースになりました。