初心者向けに秋競馬の見どころを解説するシリーズで2歳戦線編をアップした際、次のように記事を締めていました。
https://toproadoor.net/2023/12/09/2023autumn_midokoro_2year/最後に、2歳戦のカギは「成長度合い」ですよ!お忘れなく!
「【初心者向け】2023秋競馬の見どころはコレだ!〜2歳戦線〜【リバティアイランドに続け】」より
今回の阪神ジュベナイルフィリーズでもこの点を押さえてパドックを注意深く見ていた”つもり”だったのですが、いやー、失敗したなあ(悲)。
実力では出走馬の中でナンバーワンだと思っていたアスコリピチェーノを、パドックチェックで評価を下げてしまい、代わりにコラソンビートを本命にしてしまったのです。
結果はご承知のように、アスコリピチェーノ1着。コラソンビートも頑張りましたが3着でした。
ということで、今回のレース回顧ではパドックチェックでの反省点を掘り下げてみたいと思います。
レース展開
11番スウィープフィート、5番スプリングノヴァが出遅れた中、好スタートから先頭に立ったのは12番シカゴスティングでした。
内枠の馬もスタートがいい馬はいましたが、外からスピードのある13番カルチャーデイ、15番ナナオあたりが内に切れ込んで先団を形成。
7番アスコリピチェーノ、6番ステレンボッシュは五分のスタートから馬群の中に入れてレースを進めることになりました。
12番シカゴスティングがレースを引っ張る形で隊列もやや縦長に。
10番コラソンビートはややかかり気味に先団の外目へ取りつき、7番アスコリピチェーノと6番ステレンボッシュは中団で馬群にもまれながらジッとして脚をためていました。最終的な1番人気に推された14番サフィラは中団やや後方の外目を回っていました。
前半の800mは46秒4。前後半のペースがほぼ同じで、どの位置からでも1着が狙える展開に。
緩やかなカーブで3~4コーナーを曲がると隊列はギュッと固まり、逃げる12番シカゴスティングのリードもわずかに。先団にいた17番ミライテーラー、後方にいた4番ニュージェネラルは早くも一杯になり、代わりに出遅れた11番スウィープフィートが大外からまくり気味に上がってきました。
4コーナーから直線に向くと、馬群の中にいた7番アスコリピチェーノは外に持ち出して一気に末脚を爆発させます。その外では10番コラソンビートも末脚を発揮させるべく、横山武史騎手が追い出しのタイミングを図っていました。6番ステレンボッシュはアスコリピチェーノの後方から馬群を割ろうとしています。14番サフィラは大外に出して追い込み態勢に入りましたが、逃げていた12番シカゴスティングが二の足でリードを広げたため、先頭までの距離はかなりありました。
12番シカゴスティングが思いのほか逃げ粘る中、先行勢の15番ナナオ、9番テリオスルル、13番カルチャーデイらはここで一杯に。代わりに7番アスコリピチェーノと10番コラソンビートが並んで外から一気に追い込んできました。大外に出した14番サフィラと11番スウィープフィートがその後ろから追いこんできますが、前に届きそうな脚色ではありません。すると6番ステレンボッシュがルメール騎手に導かれて馬群をスルスルと割ってアスコリピチェーノらの後ろから前に迫ってきました。
残り200mを通過してようやく12番シカゴスティングの脚色が鈍り、アスコリピチェーノ、コラソンビート、ステレンボッシュが前を捉えます。
残り100mで3頭が抜け出すと、脚色に勝るアスコリピチェーノがコラソンビートを突き放し、迫るステレンボッシュを振り切ってそのまま1着でゴール。ゴール直前でコラソンビートを交わしたステレンボッシュが2着、最後に脚が止まってしまったコラソンビートが3着に。
大外から追い込んだサフィラが3頭から少し離れた4着に入り、逃げ粘ったシカゴスティングが大健闘の5着に入りました。
前走アスター賞で圧勝してこのレースでも4番人気に推されていた10番キャットファイトは見せ場なく10着に敗れました。
各馬の評価と今後
ズバリ、上位3頭は能力がここでは抜けていましたね。
それは着差を見れば明らかですし、アスコリピチェーノとコラソンビートについては、ブログでも書いていたように牡馬混合の重賞レースを勝っていましたから、「やはり」という感じです。
しかし、ステレンボッシュについては「予想以上に走ったな」という印象です。正直、パドックを見て一瞬で「これはいい馬だ」と思ったので気にはなっていたのですが、あわや勝ってしまいそうな激走を見せるとは思いませんでした。国枝厩舎の白いシャドーロールの牝馬ということでアーモンドアイを思い出しますが、大物感を感じるこの馬は来年のクラシックでかなり活躍しそうです。
1番人気のサフィラは4着に頑張りましたが、まだまだ成長が必要でしょう。血統的には期待十分ですし(サラキア、サリオスらの妹)、来年も注目なのは間違いありません。
12着ナナオや16着カルチャーデイは、ブログでも書いていたようにやはり距離が長ったのでしょう。1,400m以下ならこの世代でもかなり強いと思いますので、来年のフィリーズレビューやファルコンステークス、葵ステークスでは巻き返しもあるでしょう。
逆に5着に逃げ粘ったシカゴスティングは前走ファンタジーステークスから距離が伸びて好走できた部類でしょう。上位の馬とはまだ差がありますが、今後の成長次第で桜花賞でも好走が期待できそうです。
アスコリピチェーノのパドックを検証した
今回の阪神ジュベナイルフィリーズ。アスコリピチェーノは間違いなく能力はナンバーワンで、レースでその能力をしっかり発揮できたのが勝因だと思っています。
能力がしっかり発揮できた理由は2つ。
- アスコリピチェーノの末脚を引き出した北村宏司騎乗の好騎乗
- アスコリピチェーノの精神面の成長
1点目は、書いてある言葉そのままです。この馬の長所を引き出す騎乗をした北村騎手は、前走の新潟2歳ステークスでも手綱をとっていたことが大きかったと思います。
そして、2点目。
今回、私はパドックでアスコリピチェーノを見て「なんか集中力が欠けてるなあ」というふうに感じ、今回のレースでは能力が発揮できない可能性があると踏んで評価を落としました。レース後、この評価が誤りだったことを思い知らされたわけですが。
気になったので、アスコリピチェーノの全3走分のパドック映像を見返しました。
すると、私の印象とは逆、つまりレースを経験するごとに精神面が成長していることが分かりました。
1走目 2歳新馬 R5.6.24
- 全体的に落ち着きがなくチャカついている。
- 首が高く体に力が入っている。
- 物見をしている。
2走目 新潟2歳ステークス R5.8.27
- 1走目よりは落ち着いたが、引き手を嫌がる素振りを見せる。
- やや首が高い。
- 物見をしている。
3走目 阪神ジュベナイルフィリーズ R5.12.10
- 2走目よりさらに落ち着いて、引き手に従って歩いている。
- 首が低くなり、リラックスして歩いている。
- 物見をしている。
- 覆面(メンコ)をしている。
アスコリピチェーノの変化とパドックの見方
パドックの写真を見ていただければ分かると思いますが、1走ごとにパドックでの様子が変化していきました。
一番わかりやすいのは1走目(新馬戦)で、引き手の方が一生懸命に馬を引っ張ってなだめている様子が写真でわかると思います。多くの馬がそうですが、初めての競馬場で、初めてたくさんの観衆の前で、初めてパドックを歩かされるわけですから、新馬戦に出る馬たちというのはおびえている訳です。緊張しているという言い方もできますが、馬の心理としては「ここから逃げ出したい」という思いが強いと思います。「よーし、頑張って走るぞ!」なんていう馬はいないのではないでしょうか。だから、どうしても体に力が入ってしまい、歩き方もぎこちない感じになります。
ですが、この状態で新馬戦を勝ててしまうということは、絶対能力が他の馬とは違ったのでしょう。
2走目の新潟2歳ステークスでは幾分”まし”になりましたが、それでも体には無駄な力が入ってしまっているので、並みの馬なら能力を十分に発揮することはできませんが、この馬はやはり強かったということです。
そして3走目の阪神ジュベナイルフィリーズ。メンコをしているのでその効果(音が耳に入りにくくなる)もあるのかもしれませんが、それにしても3走の中で一番落ち着いて歩いていました。これならこの馬の本来の能力が十分に発揮できる状態だったと言えます。
じゃあ、なぜ私がパドックで「なんか集中力が欠けてるなあ」と思ったのか?
それは、アスコリピチェーノが物見をしていたからです。
しかし、それが誤った判断、ミスリードであったことを、3走分のパドックを見返してやっと気づきました。
「なんだよ、3走すべて物見してるじゃないか!」と。
つまり、物見はアスコリピチェーノの癖(くせ)だったわけです。阪神JFで初めて物見をしていたのではなかったんですねえ。
今回のレースで、この「物見」の考え方を改めるキッカケになりました。
「物見」について、グランアレグリアなど数々の名馬を管理してきた元調教師の藤沢和雄さんが著書の中でこのように書いていらっしゃいました。
若い馬は好奇心も旺盛だ。だからパドックを周回していて、派手な洋服を着ていたり、傘を差していたりする人や、花を飾っていたりすると気になって立ち止まって見つめる。それを「物見をしている」と言ったりするけれど、それまで見たことがない新しいモノとの出会いだし、そのうちに慣れてくるから大目にみてやってほしい。
これからの競馬の話をしよう(藤沢和雄著、小学館新書)
そう、若い馬、2歳馬や3歳馬は物見をするものなのですね。
好奇心が旺盛ということは、いろいろなことや物を吸収する意欲があるということだから、物見をする馬は「賢い馬」という可能性もあるかもしれません。競馬ゲームの「Winning Post」をプレイしたことがある人はピンとくるかもしれませんが、馬の賢さの表現として「好奇心旺盛」という言葉がゲームの中で使われていたりします。
20戦も30戦も走っている5歳馬や6歳馬が物見をしていたら、それは「賢い」というより「やる気がない」「集中力がない」「レースに気持ちが向いていない」と見てもよいかもしれませんね。
まとめ
ということで、いろいろ反省点もあった阪神ジュベナイルフィリーズでしたが、いずれにしても勝ったアスコリピチェーノは相当強い馬だと思いますし、負けはしましたがステレンボッシュやコラソンビートも今後の成長次第でクラシックでは逆転も可能だと思います。
あとは、今回出走しなかったボンドガールやチェルヴィニアといった馬たち、そしてこれからデビューする馬たちも加わって、どのような来年の牝馬クラシック争いになるか今から楽しみです。
今週末は朝日杯フューチュリティステークス、そして年末にはホープフルステークスと2歳戦線の注目レースが続きますので、ここではしっかり馬の成長度合いを見極めていきたいと思っています!