
昨日(2025年6月27日)、以下のようなニュースが競馬ファンたちの間で話題となりました。
今年のダービー馬クロワデュノール(牡3歳、栗東・斉藤崇)が、凱旋門賞・G1(10月5日・仏パリロンシャン)を目指すことが明らかになった。所属するサンデーサラブレッドクラブが27日、ホームページで発表した。前哨戦として芝2000メートルで行われるプランスドランジュ賞・G3(9月14日・仏パリロンシャン)をひと叩きして臨む予定だ。ともに鞍上は北村友に依頼している。
凱旋門賞と同条件で行われるニエル賞も選択肢にあったが、疲労を少なくし、いい状態で本番に臨むために距離が短いレースに出走させることに決まった。8月末に出国する予定だ。
netkeiba.com(提供:デイリースポーツ)より引用
今年のダービー馬クロワデュノールが10月の凱旋門賞に挑戦するというニュースです。
凱旋門賞制覇は日本競馬界の悲願ですし、多くの競馬ファンにとっての夢でもあります。
今回は、このニュースについて深堀りしてみます。
凱旋門賞とは

競馬ファンにとっては説明するまでもありませんが、凱旋門賞は”世界最高峰“と言われるG1レースで、フランスのパリロンシャン競馬場で開催される芝2,400のレースです。
1920年に創設された凱旋門賞は、これまでに数多くの歴史的名馬を輩出しているレースで、これこそが「世界最高峰のレース」と言われる所以でしょう。
ざっと挙げるだけでも、以下のような名馬たちが凱旋門賞を優勝しています。
- 凱旋門賞を勝った歴史的名馬たち
- ・リボー(1955年~1956年連覇)
・シーバード(1965年)
・ミルリーフ(1971年、欧州3冠達成)
・アレッジド(1977年~1978年連覇)
・ダンシングブレーヴ(1986年、シリウスシンボリ14着)
・アーバンシー(1993年)
・ラムタラ(1995年、欧州3冠達成)
・モンジュー(1999年、エルコンドルパサー2着)
・シーザスターズ(2009年、アーバンシーと親子制覇)
・トレヴ(2013年~2014年連覇、2013年オルフェーヴル2着)
・エネイブル(2017年~2018年連覇、2017年サトノダイヤモンド15着)
凱旋門賞の特徴としてよく言われてるのが、「3歳馬と牝馬が強い」というもの。
昨年の凱旋門賞を勝ったブルーストッキングは牝馬でしたし、一昨年勝ったエースインパクトは3歳馬、その前の年に勝ったアルピニスタは牝馬・・・という感じで、3歳馬と牝馬が交互に勝っている印象すらあります。
上で挙げた名馬のうちアーバンシー、トレヴ、エネイブルは牝馬ですし、その他のリボーからシーザスターズまでの馬たちはすべて3歳時に凱旋門賞を勝っています。
3歳馬と牝馬が強い理由として、古馬の牡馬と比べて斤量が軽いということが指摘されています。
古馬の牡馬の斤量が59.5kgに対して、古馬の牝馬は58kg、3歳の牡馬が56.5kg、3歳の牝馬が55kgという形で斤量差が生じるのです(日本でも同じですが)。
また、凱旋門賞が行われる頃のロンシャン競馬場は馬場が悪いことが多く、ただでさえ洋芝でパワーがいるのに、荒れた馬場によってさらにパワーが要求されるため、斤量の差がスタミナの消費に大きく影響するのだと考えられます。
3歳の日本馬たちの凱旋門賞挑戦
今回、3歳馬のクロワデュノールが凱旋門賞に挑戦するということですが、これまで3歳時に凱旋門賞に挑戦してきた日本馬たちの成績はどうだったのでしょうか?
あらためて振り返ります。
2010年 ヴィクトワールピサ7着(重)
- ヴィクトワールピサの凱旋門賞までの道のり
- 2009.10.25 2歳新馬 2着
2009.11.7 2歳未勝利 1着
2009.11.28 京都2歳S(OP) 1着
2009.12.26 ラジオNIKKEI杯2歳S(JpnⅢ) 1着
2010.3.7 弥生賞(GⅡ) 1着
2010.4.18 皐月賞(GⅠ) 1着
2010.5.30 日本ダービー(GⅠ) 3着
2010.9.12 ニエル賞(仏G2) 4着
2冠馬ネオユニヴァースの2年目の産駒で、半兄に安田記念馬のアサクサデンエンがいるという良血馬のヴィクトワールピサ。
デビュー戦はのちのジャパンカップ馬ローズキングダムに敗れましたが、GⅠ初制覇となった皐月賞まで破竹の5連勝。
ダービーはエイシンフラッシュの3着に敗れましたが、実績十分で凱旋門賞へ挑戦。これが3歳馬としては初めての日本馬の凱旋門賞挑戦となりました。
凱旋門賞と同じ舞台の前哨戦ニエル賞に出走したヴィクトワールピサでしたが、勝ったベーカバドからは大きく離された4着に敗れます。この時の馬場は重馬場。
日本でも重馬場はこなしていたヴィクトワールピサでしたが、この時点で暗雲が立ち込めていました。
ヴィクトワールピサは、勝ったワークフォースと日本馬ナカヤマフェスタのデッドヒートを遠目に見ながら、後方から全く伸びずに7着と惨敗。
帰国後に有馬記念を勝ち、翌年には日本馬初のドバイワールドカップ制覇を果たして名馬の道を駆け上がったヴィクトワールピサでしたが、3歳馬初の凱旋門賞挑戦は苦い記憶となってしまいました。
2013年 キズナ4着(重)
- キズナの凱旋門賞までの道のり
- 2012.10.7 2歳新馬 1着
2012.11.11 黄菊賞 1着
2012.12.22 ラジオNIKKEI杯2歳S(GⅢ) 3着
2013.3.3 弥生賞(GⅡ) 5着
2013.3.23 毎日杯(GⅢ) 1着
2013.3.23 京都新聞杯(GⅡ) 1着
2013.5.26 日本ダービー(GⅠ) 1着
2013.9.15 ニエル賞(仏G2) 1着
父ディープインパクト、半姉は牝馬2冠を含むGⅠ3勝のファレノプシスという超良血馬のキズナ。
ノースヒルズの悲願に向けて2歳でデビューしたキズナは、順調に2連勝。しかし、その後は2連敗してしまい、幼さと不器用さを露呈してしまいます。
皐月賞を回避してダービー1本に照準を絞ったキズナは、毎日杯、京都新聞杯で末脚に磨きをかけて重賞2連勝。
そして、記憶に残るダービーの見事な差し切り勝ち。
問題はフランスでの前哨戦ニエル賞でしたが、重馬場の中で英ダービー馬ルーラーオブザワールドを下しての見事な勝利。ヴィクトワールピサと同じ武豊騎手とともに、父ディープインパクトの雪辱と凱旋門賞初制覇の期待がキズナに集まりました。
2度目の挑戦となった先輩オルフェーヴルの2年連続2着も素晴らしい結果ですが、2着と差のない4着に入ったキズナもよく頑張った。
しかし、相手が悪かった。勝った3歳牝馬トレヴは翌年に凱旋門賞連覇を果たしました。
2014年 ハープスター6着(良)
- ハープスターの凱旋門賞までの道のり
- 2013.7.14 2歳新馬 1着
2013.8.25 新潟2歳S(GⅢ) 1着
2013.12.8 阪神JF(GⅠ) 2着
2014.3.8 チューリップ賞(GⅡ) 1着
2014.4.13 桜花賞(GⅠ) 1着
2014.5.25 オークス(GⅠ)2着
2014.8.24 札幌記念(GⅡ) 1着
こちらも父ディープインパクト。とにかく勝ちっぷりがインパクト大のハープスターは、毎回ほぼ最後方の位置からもの凄い追い込みを見せ、川田将雅騎手の豪快な騎乗とともに見る者をワクワク、ドキドキさせる女の子だったのです。
新馬戦、新潟2歳Sとド派手な勝ちっぷりでデビュー2連勝。阪神JFは追い込みが届かず惜しくも2着に敗れましたが、3歳になってチューリップ賞、桜花賞と2連勝で初GⅠ制覇を果たします。
オークスはまたしても追い込みが届かず2着に敗れましたが、脚質的に致し方なかったかもしれません。
ハープスターがこれまでと違ったのは、前哨戦をフランスではなく日本国内で戦ったこと。 大人気ゴールドシップとのデッドヒートを制して札幌記念を勝ったのです。
珍しく良馬場となったロンシャン競馬場でしたが、好条件を生かせなかったハープスターは前年の覇者トレヴの2連覇を6番手の位置で見届けることになりました。
ハープスターとともに挑戦した世界ランクトップのジャスタウェイ(8着)も、GⅠ5勝(のちの天皇賞で6勝目)のゴールドシップ(14着)も、”世界最高峰”の大きな壁に跳ね返されたのです。
2016年 マカヒキ14着(良)
- マカヒキマカヒキの凱旋門賞までの道のり
- 2015.10.18 2歳新馬 1着
2016.1.23 若駒S(OP) 1着
2016.3.6 弥生賞(GⅡ) 1着
2016.4.17 皐月賞(GⅠ) 2着
2016.5.29 日本ダービー(GⅠ) 1着
2016.9.11 ニエル賞(仏G2) 1着
金子真人オーナーの秘蔵っ子マカヒキは、新馬戦から弥生賞までデビュー3連勝で、ここまでの活躍ぶりはまさに父ディープインパクトそのもの。特に、弥生賞は朝日杯FS1~2着馬(リオンディーズ、エアスピネル)を相手に完勝し、その先も父と同じ道――無敗の3冠馬――を歩むことが期待されました。
しかし、皐月賞は伏兵ディーマジェスティに敗れ2着。
皐月賞からコンビを組んだ川田騎手は雪辱に闘志を燃やし、サトノダイヤモンドとのハナ差の大接戦を制して見事に涙のダービー初制覇を果たしました。
マカヒキは、ヴィクトワールピサやキズナと同じようにニエル賞から凱旋門賞に臨むこととなりました。そのニエル賞では、ダービーでサトノダイヤモンドに騎乗していたC.ルメール騎手を背に楽勝。ついに日本馬の凱旋門賞制覇が見られるかと思いましたが・・・。
なんと当日のロンシャン競馬場はパンパンの良馬場。瞬発力に自信のあるマカヒキにとっては絶好の舞台と思われましたが、外々を回されて直線に入る頃には脚があがってしまい、力なく14着に沈んでしまいました。
勝ちタイムは2分23秒61という猛烈なレコードタイム。勝ったアイルランドの名牝ファウンドが強すぎたのです。
2022年 ドウデュース19着(重)
- ドウデュースの凱旋門賞までの道のり
- 2021.9.5 2歳新馬 1着
2021.10.23 アイビーS(L) 1着
2021.12.19 朝日杯FS(GⅠ) 1着
2022.3.6 弥生賞(GⅡ) 2着
2022.4.17 皐月賞(GⅠ) 3着
2022.5.29 日本ダービー(GⅠ) 1着
2022.9.11 ニエル賞(仏G2) 4着
武豊騎手を背にデビュー3連勝で2歳チャンピオンになったドウデュース。名実ともに世代のトップに立ったドウデュースでしたが、3歳に入ると苦戦が続きます。
前を行く馬たちを捕らえきれず、皐月賞は消化不良の3着。
しかし、ダービーではライバルのイクイノックスよりも早く抜け出し、まさに10年前のキズナを見ているかのような抜群の末脚で武豊騎手に6個目のダービーの勲章をもたらしました。
そして、例にもれずドウデュースはニエル賞から凱旋門賞に挑戦することになりました。
ところが、ロンシャンの重馬場に切れ味を削がれて4着に”惨敗”。ヴィクトワールピサの嫌な思い出が頭をもたげていました。
土砂降りのドロドロのロンシャン競馬場で行われた凱旋門賞は、牝馬のアルピニスタが勝ってG16連勝を達成。
ドウデュースは終始後方のまま画面から消えてしまうほどの大敗を喫してしまいました。
雨の宝塚記念でも惨敗したところを見ると、もしかすると、ドウデュースは雨に濡れるのが嫌いなのかもしれません。
2024年 シンエンペラー12着(重)
- シンエンペラーの凱旋門賞までの道のり
- 2023.11.4 2歳新馬 1着
2023.11.25 京都2歳S(GⅢ) 1着
2023.12.28 ホープフルS(GⅠ) 2着
2024.3.3 弥生賞(GⅡ) 2着
2024.4.14 皐月賞(GⅠ) 5着
2024.5.26 日本ダービー(GⅠ) 3着
2024.9.14 愛チャンピオンS(愛G1) 3着
2020年の凱旋門賞馬ソットサスの全弟としてサイバーエージェントの藤田晋オーナーに見初められたシンエンペラー。まさに凱旋門賞に挑戦するために購入されたような馬ですが、デビュー2連勝のあとは、一度も勝つことができませんでした。
ダービーで3着に入った走りは良血馬の”それ”でしたが、そうは言ってもGⅠ未勝利の3歳馬が凱旋門賞に挑戦するのは初めての試みです。
しかし、前哨戦として選択したアイリッシュチャンピオンステークスではオーギュストロダンなどの古馬に交じって惜しくも3着。兄の背中が見えた気がしたのですが・・・。
またもや雨で重馬場となったロンシャンで、故郷に凱旋したシンエンペラーは全くいいところを見せることができず12着と惨敗を喫しました。
そして、勝ったのは牝馬のブルーストッキング。なんだが、日本の3歳馬が出走する凱旋門賞では牝馬が勝つケースが多くないですか?これも偶然でしょうか。
クロワデュノールへの期待と心配
さて、クロワデュノールはどんな走りを凱旋門賞で見せてくれるのでしょうか?
過去の3歳馬の挑戦を振り返ると、以下のようなポイントがありそうな気がします。
- 3歳馬による凱旋門賞挑戦のポイント
- ・現地(できればロンシャンで)で前哨戦を戦って、好走すること
・強力な牝馬が参戦しないこと
・当日に雨が降らないこと
日本とフランスでは環境が全く違いますので、やはり本番前に現地で1度レースを使う方が、力関係や馬場の感触を確認しながら本番のレースをどう戦うか戦略を練ることができるので、より勝利に近づるでしょう。ここで好走できるなら、まずは「第一関門突破」といったところです。
クロワデュノールは、前哨戦として「プランスドランジュ賞」というレースを使うようですが、距離は2,000mと本番よりも短いものの、ロンシャン競馬場で走ることができるので、よい選択だと思います。
そして、なんといっても過去に日本の3歳馬たちはことごとく名牝たちに蹴散らされていますので、クロワデュノールの前にもそんな馬が立ちはだかることになれば、苦戦が予想されます。
凱旋門賞はまだ先ですので、どんな馬が出走するのかは現時点でよくわかりませんが、私の把握している限り古馬の中にはそれほど脅威になる牝馬はいないでしょう。あとは同世代からとんでもない馬が出てこないことを祈るだけですが、とにかく今後の欧州中長距離路線の動向を注視していきたいと思います。
あとは、これはどうしようもないことですが、とにかく雨が降らないことを祈るだけ。
クロワデュノールも渋った馬場のダービーを勝っていますので、ロンシャンの力のいる馬場でもこなせるはずですが、それでも雨が降ってしまうと、パワーとスタミナを兼ね備えた欧州の猛者たちの餌食になってしまうことは目に見えています。
北村友一騎手はお手馬のクロノジェネシスが2021年の凱旋門賞に挑戦した際には、自信が大怪我を負っていたことでコンビを組むことができませんでした。
しかし、今回はクロワデュノールとのコンビ継続でついに夢の舞台に立ちます。
先日は日本の4歳馬ビザンチンドリームの凱旋門賞挑戦も発表されたところ。鞍上は未定のようですが、日本馬2頭と騎手2名の健闘と無事を祈りたいと思います。