
ファン投票で選ばれた精鋭たちの夢のグランプリ宝塚記念。
例年よりも2週間前倒しで行われた今年の宝塚記念は、スケジュール変更の甲斐なく梅雨と暑熱の影響をモロに受ける形になりました。
そんな中、涼しい顔で逃げ切り勝ちを演じたメイショウタバルは、いかにしてこの過酷なレースを戦い抜いたのでしょうか?
宝塚記念2025 レース結果
こちらが宝塚記念2025の全着順です。

前走のドバイターフで5着となかなかのレースを見せたメイショウタバルは、天候の回復とともに徐々に人気を下げていきながら、ファンの評価をあざ笑うかのように見事な優勝を果たしました。
勝ちタイムは2分11秒1。稍重で行われたレースでしたが、阪神競馬場で開催された過去10回のレースの中で4番目に速いタイムでした。
2着に1番人気のべラジオオペラが入り、前走のような鮮やかな勝利の再現はできませんでしたが、ファン投票1位の面目躍如となりました。
3着に10番人気のジャスティンパレスが入り、「今回はさすがに来ないだろ」と思っていたファンの”期待”を裏切る好走をみせました。
7番人気ー1番人気ー10番人気という結果で、3連単127,550円という高配当が付いています。まさに波乱の宝塚記念だったと言っていいでしょう。
- 優勝馬メイショウタバルのプロフィール
- 父 ゴールドシップ
母 メイショウツバクロ(母父 フレンチデピュティ)
馬主 松本好雄
生産者 三嶋牧場
調教師 石橋守(栗東)
通算成績 11戦5勝(’25GⅠ宝塚記念、’24 GⅡ神戸新聞杯、’24 GⅢ毎日杯など)
父ゴールドシップは2013年~2014年に宝塚記念を連覇した馬で、メイショウタバルは親子で宝塚記念を制覇したことになります。ちなみに、ゴールドシップの父(メイショウタバルの祖父)のステイゴールドは、1998年に2着、1999年に3着、2000年と2001年に4着とあと一歩で宝塚記念を勝つことができなかった馬でした。
「メイショウ」の冠名でお馴染みの松本好雄オーナーは、2001年に優勝したメイショウドトウ以来、宝塚記念は2勝目となりました。ちなみに、GⅠ4勝の名馬メイショウサムソンは2007年と2008年に惜しくも2着に敗れていました。
石橋守調教師は調教師生活13年目で嬉しいGⅠ初制覇となりました。そして、なんといっても現役時代に弟のように可愛がっていた武豊騎手がそのGⅠをプレゼントしてくれたということで、喜びもひとしおでしょう。
その武豊騎手はなんと宝塚記念5勝目。宝塚記念5勝は歴代最多で、2006年のディープインパクト以来となる久々の勝利となりました。
メイショウタバル自身は、これがGⅠ初制覇。人気を背負いながら惨敗した皐月賞と菊花賞、無念の出走回避となったダービー、そして初めての海外挑戦となった前走のドバイターフを経て、ついにその才能を開花させました。
宝塚記念2025 レース展開

そろった綺麗なスタートに見えましたが、ゲートを出た12番メイショウタバルが外に寄れてしまったために、その外にいた13番アーバンシックが体をぶつけられて後ろに下がってしまいました。
そのメイショウタバルは、「やはり」という感じでジワーっと先頭に立ちました。
その他の馬たちも、スタンド前の長い直線を使って各々のポジションを取りに行きます。
17番レガレイラは、戸崎騎手が手を動かしながら、思いのほか前目のポジションを取ろうとしていました。
1番べラジオオペラと2番ドゥレッツァは、内から無理なく好位のポジションを取りにいきました。

第1コーナーにかかるあたりで隊列はやや縦長になり始め、11番ソールオリエンスはかなり離れた最後方になっていました。
しかし、やはり1コーナーから2コーナーにかけてペースは落ち着き、先頭のメイショウタバルも思ったより後ろを離さずに逃げていました。
べラジオオペラ、ドゥレッツァともに予想よりもやや後ろの位置で、特にべラジオオペラは鞍上の横山和生騎手の手が動いていて行きっぷりが悪そうです。
レガレイラはちょうど中団の位置に入り、絶好のポジションを取りました。
一方、アーバンシックはスタートで後手を踏んだことも影響して、後方から3番手くらいの位置になってしまいました。
7番ジャスティンパレスはスタートはうまく出たものの、いつものように後方の位置取りで、アーバンシックの内側でジッとしています。

向正面に入ると、武豊騎手は何とかメイショウタバルの折り合いをつけて、マイペースに持ち込みました。
最初の1,000mが59秒1。タイムだけ見るとやや速いペースに見えましたが、メイショウタバルにとっては最適なペースだったようです。向正面のラップタイムも、ほぼ1ハロン(200m)12秒で推移し、武騎手の見事なペースコントロールだったのです。
すると、後続勢は淡々としたペースに耐え切れずに前に前にポジションを上げていき、べラジオオペラもいつの間にかメイショウタバルの直後の3番手の位置まで上がっていました。4番ヨーホーレイクはややかかり気味にも見えました。
ジャスティンパレスはマイペースに後方から3番手の位置で脚をためていて、おっとりした馬の走りが結果的に最後の直線での爆発力につながったかもしれません。

第3コーナーをカーブすると、メイショウタバルは少しペースを上げて後続勢に揺さぶりをかけます。
すると、「離されまい」とするべラジオオペラやドゥレッツァ、レガレイラ、アーバンシックらはやや馬に気合いを入れながら、メイショウタバルのペースについていくよう促しました。
しかし、メイショウタバルと武豊騎手の術中にハマってしまった馬たちは、ここで余力を使い切ってしまうことになったのでしょう。
一方、ジャスティンパレスやソールオリエンスはまだ後方の位置。
そして、絶好の手ごたえで上がっていくのが16番ショウナンラプンタ。レガレイラの後方から一気に前の馬たちを捉えようかというロングスパートを見せていました。

先頭のメイショウタバルは素晴らしいコーナリングスピードで第4コーナーから直線に突っ込んでいきました。
早めに先頭を捕まえられると思っていた2番手のべラジオオペラは、コーナリング中も激しく横山騎手の手が動いていて、4コーナーを回ったあとも外に膨れながら苦しそうな脚色に見えました。
レガレイラとドゥレッツァはこの時点でほぼバテてしまった状態で、アーバンシックも後方でまったく伸びてきません。ヨーホーレイクやローシャムパークもズルズルと力なく後ろに下がっていきました。雨を含んだ力のいる馬場とトリッキーなペースがこれらの馬たちのスタミナを奪ってしまったのかもしれません。
ロングスパートのショウナンラプンタと大外に出したジャスティンパレスが懸命に追いこんできますが、メイショウタバルとはかなり距離がありました。

阪神競馬場の短い直線で、メイショウタバルは一気にギアを上げて後続を突き放します。
べラジオオペラもメイショウタバルを追いかけますが、フラフラしながら苦しそうに走っていて、上り坂にかかった時点で余力はなくなってしまいました。
外からショウナンラプンタ、内から抜けてきた5番チャックネイトがジワジワ差を詰めてきますが、メイショウタバルの脚色は衰えずに3馬身のセーフティーリード。
そのままメイショウタバルがゴール。見事に逃げ切り勝ちを収めました。
スタミナ切れになりながらも最後まで根性で走り抜いたべラジオオペラが2着、大外から最速の末脚で追い込んだジャスティンパレスが3着に滑り込み、ショウナンラプンタが4着、チャックネイトが5着となりました。
4コーナーで早くもレースが終わってしまった4番人気ドゥレッツァは9着、2番人気レガレイラは11着、5番人気ヨーホーレイクは最下位の17着に沈んでしまいました。
YouTubeのレース映像もぜひご覧ください。
宝塚記念2025 主な出走馬の短評
- メイショウタバル(1着)・・・能力を出し切って勝った。そして、能力を出し切るレースに導いた武豊騎手の騎乗が見事だった。雨で力のいる馬場になったことも味方したが、スタート後のスタンド前でテンションが上がりやすいところを、何とかなだめて折り合いをつけた時点で一気にこの馬の勝利に傾いた。距離、コースともに得意な舞台で、スタミナを温存しながらマイペースで逃げられたことで、馬も気持ちよくゴールまで走れたのだろう。4歳勢恐るべし。以下は武豊騎手のレース後コメント。
嬉しすぎますね。涙が出そうになるくらい嬉しかったです。馬がつないでくれる縁というか、人がつなぐ馬との縁というか、そういった事を感じますし、色々な思いがあります。基本的には先手を取りたいと思っていました。ただ、どれくらいのペースで行ったらいいのか、どれくらいの感じで馬が走るというのはスタートしてみないと分からなかったので、色々な迷いもありました。(1000m59秒1のペースは)それ以上は速くしたくなかったですし、スローも望んでいなかったので、丁度良いくらいの入りかなと思いました。(4コーナーではベラジオオペラが来ていたが)どの馬かは分からなかったのですが、割と早めに来ていました。それは馬場傾向で、ある程度各馬が早目に仕掛けて来るのかなと思っていましたが、4コーナーを回る時の手応えも良かったので、リードを取った時に何とか押し切ってくれ、という気持ちでした。
馬の状態はとにかく良かったと思いますし、こういう馬場状態も気にはしなかったので、色々と上手くいったかなと思います。(今日は父の日、メイショウタバルの父ゴールドシップと親子二代制覇した事について)私の父(武邦彦さん)も喜んでいると思います。今日は応援していただいてありがとうございました。たまにはこういう馬が勝つのも良いのではないでしょうか
武豊騎手のレース後コメントより(netkeiba.com)
- べラジオオペラ(2着)・・・パドックで見た時に、大阪杯と比べて元気がなく、馬体も見栄えしなかった。横山和騎手が「夏負けの兆候があったかも」とコメントしていたとおり、スタート後もモタモタしてポジションが取れず、4コーナーを回る時点でもスタミナが切れる寸前のようなモタつきが見られた。それでも、2着を確保できたのはこの馬の能力の高さと勝負根性の強さの証拠。「負けてなお強し」だった。
- ジャスティンパレス(3着)・・・「ジャスティンパレスは終わった」と思っていた(自分も含めて)ファンを見返す末脚を見せた。しかし、やはり今回も勝てなかった。馬体の見栄えはしなくなってきたが、瞬発力や心肺機能は衰えていなかった。コース、距離も今のこの馬には合っていた。良馬場の天皇賞秋でもう1度華を咲かせたい。ディー騎手の馬の能力を引き出す騎乗も素晴らしい。
- ショウナンラプンタ(4着)・・・調教が素晴らしい動きだったので、調子は良かったはず。大きな馬体で力のいる馬場もこなせたのだろう。いつも長くいい脚で追い込んでくるが、GⅠではもう1歩足りない。現状では精一杯の走り。素質は間違いないので、夏の間の成長に期待したい。
- チャックネイト(5着)・・・雨が降ったあとの力のいる馬場は得意。距離もピッタシだった。今回の出走馬で唯一他の馬たちと勝負付けが済んでいない馬だったので、不気味ではあった。内からスルスル抜けて、ロスなく走り切ることができた。レーン騎手もさすが。
- ロードデルレイ(8着)・・・まったく問題のないレース運びだったが、何もできなかった。距離の問題か、馬場状態の問題か、よくわからない。川田騎手も首をかしげるレース。
- ドゥレッツァ(9着)・・・調教の動きは抜群に見えたが、レースでは行きっぷりがよくなかった。力のいる馬場が苦手かもしれない。横山武騎手も馬場のせいで余力がなくなったと分析。スタミナはあるはずなので、走法の問題かも。
- レガレイラ(11着)・・・思いのほか前目のポジションを取りにいったが、戸崎騎手によると想定通りの位置取りだったとのこと。しかし、早い時点でスタミナ切れに。スタミナはあるはずなので、骨折明けのレース勘や仕上がりの問題か、それとも馬場の問題か。戸崎騎手も首をひねる。
- アーバンシック(14着)・・・スタートでメイショウタバルに体をぶつけられて後手を踏んだことが痛かった。調教は素晴らしい動きだっただけに悔しい。今回のレースはもっと前にいないとダメだった。3コーナー過ぎから挽回してきたが、あそこで余力を使い切ってしまった。チグハグなレースに。悪い馬場がダメなわけではないはずだが、結果的に今回はマイナスに働いた。
- ヨーホーレイク(17着)・・・まさかのシンガリ負け。馬場状態も含めてベストなレース環境だったが、序盤で引っかかったのが痛かった。それにしても負けすぎ。馬体の大きな馬なので、夏負けもあったか?
今後の見どころ
メイショウタバルの成長ぶりと潜在能力の高さを見せつけられたが、この馬に関しては安定感が課題。名馬サイレンススズカのように武豊騎手がこの馬を手の内に納めたのだとしたら、天皇賞(秋)でも激走が見られるかもしれません。
2着には負けましたが、万全ではない中でしっかり粘り込んだべラジオオペラの強さが際立ちました。秋には万全の状態で出て来るはずですので、ジャパンカップも含めて秋の中距離路線はこの馬が主役になる可能性があるでしょう。
べラジオオペラに対抗する馬としては、4歳勢ではダノンデサイルが筆頭ですが、この馬に関しては海外遠征の予定もあるので、直接的なライバルとしては安田記念を圧勝したジャンタルマンタル、天皇賞馬ヘデントールあたりでしょうか。
5歳勢では、ドゥレッツァとタスティエーラが秋の中距離路線では有力候補となりますが、距離適性を考えると天皇賞はべラジオオペラの方が分がありそうです。この2頭に関してはジャパンカップでの活躍を期待しています。
4歳勢のアーバンシックとレガレイラに関しては、父スワーヴリチャードの成長力に疑問が付きまといます。この夏でどこまで成長できるか注目です。
秋には3歳勢も中距離路線に加わってきます。皐月賞馬のミュージアムマイル、ダービー馬のクロワデュノール、ダービー2着馬のマスカレードボールなどの素質馬が、果たして古馬勢にどこまで食い込めるのか楽しみです。もちろん、これらの馬は菊花賞や海外挑戦の道もあるわけですが、いずれにしても年末の有馬記念では現3歳世代のレベルの高さがはっきりとわかるでしょう。