日本ダービー2024の見どころをいろいろと考えていたところ、「やはり、これが1番の注目だろう」という結論に至りました。
そう、「牝馬のレガレイラはダービーを勝つことができるのか?」ということ。
ファンは良く分かっているでしょう。牝馬がダービーを勝つことがいかに難しいミッションであるか、ということを。
しかし、そのミッションをクリアした牝馬が歴史上3頭いるのです。だから、レガレイラがダービーを勝てるかどうかは、ダービーの歴史を検証することで手がかりがつかめるのではないかと考えて、今回、その検証をやってみました。
日本ダービーを勝った牝馬3頭
そもそも、日本ダービーは正式名称を「東京優駿」と言っていて、その歴史は戦前までさかのぼります。
詳しくはJRAのホームページなどに書いてあるのですが、簡単に言うと、英国ダービーにならって1932年(昭和7年)に創設された3歳限定の重賞競走「東京優駿大競走」が日本ダービーの起源です。今年2024年の東京優駿(日本ダービー)は、この第1回の「東京優駿大競走」から数えて第91回目となります(戦争により1945年~1946年は開催中止)。
90年以上の歴史で日本ダービーを勝った牝馬は、たった3頭。しかし、3頭いるのです。netkeibaさんの記事から引用して、以下簡単に紹介します。
第6回(1937年)優勝馬 ヒサトモ
父トウルヌソルは、戦前の馬産をけん引した下総御料牧場がイギリスから導入した超優良種牡馬。母は、同じく下総御料牧場がアメリカから輸入した星友で、半兄に種牡馬として活躍した持込馬の月友(父マンノウォー)がいる良血馬です。
第6回東京優駿大競走では、牝馬のサンダーランドとともに牝馬によるワンツーフィニッシュを決めています。古馬になってからも帝室御賞典・秋(今の天皇賞・秋)を制するなど、ヒサトモはダービー馬の名にふさわしい活躍ぶりを見せました。
繁殖成績は振るわなかったようですが、その血は脈々と受け継がれ、ついには第58回日本ダービー優勝馬のトウカイテイオーが誕生することになります。
第12回(1943年)優勝馬 クリフジ
戦前の代表的な名馬であり、史上最強馬として語られることも多いクリフジ。その理由は、クリフジの驚異的な戦績にあります。
クリフジの父もトウルヌソルで、ヒサトモと同じ下総御料牧場で産まれた良血馬でした。
デビューはなんと3歳の5月!そして、デビュー3戦目となる翌6月の第12回東京優駿競走を6馬身差の圧勝。さらに、当時は秋に行われていたオークス(阪神優駿牝馬)も勝ち、その翌月には菊花賞(京都農林賞典四歳呼馬)も勝って無敗で変則3冠を達成。この後、戦況の悪化により馬券発売によるレースは中止になりましたが、4歳になってからも能力検定のレースを3戦3勝。最終的に11戦11勝というとんでもない成績を残して引退しました。
第74回(2007年)優勝馬 ウオッカ
そして、現代にいる我々がリアルタイムでその偉業を目撃することになった、牝馬による64年ぶりの日本ダービー制覇。それが、ウオッカの優勝でした。
ここで多くを語る必要はないと思いますが、日本ダービー制覇を含むGⅠ7勝、獲得賞金13億3千万円超という歴史的な名牝。時に「あれ?」という負け方もする馬でしたが、ハマった時の強さは歴代の名馬たちの中でも特筆すべきもの。同世代のもう1頭の歴史的名牝ダイワスカーレットとのライバル関係は、今でもファンの間では語り草となっています。
残念ながら子供たちは大きな活躍を見せることなく、ウオッカは2019年に繫養先のイギリスで亡くなりました。
ウオッカが勝てて他の馬が勝てなかった要因を探る
では、レガレイラはウオッカ以来17年ぶりの牝馬による日本ダービー制覇を達成できるのか?
この答えを探るためには、やはり過去の優勝馬を研究することが一番だろうと考えました。
しかし、ヒサトモやクリフジについては古すぎて情報が少ない(もちろんリアルタイムで見たこともないですし)ので、ここはウオッカに焦点をあてて調べてみました。ただ、ウオッカの強さは周知の事実で、いまさらそれを掘り下げても意味がないと思い、今回は、ダービーに挑戦したけど負けてしまった牝馬たちと比較することで、ウオッカがダービーを勝てた要因をあぶり出そうと考えました。
ダービーに挑戦して敗れた牝馬たち
当然ですが、日本ダービーを優勝した牝馬がいるということは、その陰にはダービーに果敢に挑戦して敗れていった牝馬たちもいるということです。
以下は、その牝馬たちの一覧です。
- 日本ダービーに挑戦して敗れた牝馬たち
- 1953年 チエリオ 4着
1953年 ミナトタイム 7着
1953年 イチジヨウ 24着
1953年 ダツシングラス 28着
1955年 ミスアスター 19着
1956年 フェアマンナ 6着
1956年 トサモアー 25着
1957年 セルローズ 8着
1957年 ミスオンワード 17着
1958年 ホウシュウクイン 9着
1961年 チトセホープ 3着
1965年 ビューテイロック 12着
1981年 マーブルトウショウ 25着
1983年 シャダイソフィア 17着
1996年 ビワハイジ 13着
(2007年 ウオッカ 1着)
2014年 レッドリヴェール 12着
2021年 サトノレイナス 5着
意外とたくさんいるように見えますが、ほとんどが1950~60年代に走った馬で、1980年以降にダービーに挑戦した馬はウオッカを含めて計6頭。グレード制が導入された1984年以降になるとダービーに挑戦した牝馬はわずか4頭で、その中からウオッカが唯一優勝しています。
ビワハイジ、レッドリヴェール、サトノレイナスの共通点
長らく「牝馬は牡馬に勝てない」という状況が続いた中で、その常識を覆して圧倒的な強さで世代頂点にたったウオッカの偉大さが際立っているように思います。なぜこのような強い牝馬が産まれたのか、ということについては、ここ20年~30年間の日本競馬の急激なレベルアップが関係していると考えました。
そこで、1996年以降にダービーに挑戦して敗れた3頭の牝馬とウオッカを比較し、ウオッカがダービーを勝てた要因を探ることにします。
第63回(1996年) 13着 ビワハイジ
ビワハイジといえば、最近ファンになった方にとってはGⅠ6勝の名牝ブエナビスタのお母さんというイメージがあるかもしれません。そう、ビワハイジは現役時代も活躍しましたが、もっとも輝いたのは繁殖牝馬になってからかもしれません。
ビワハイジは新馬戦(芝1,000m)、GⅢ札幌3歳ステークス(芝1,200m)とデビュー2連勝を決めると、3戦目のGⅠ阪神3牝馬ステークス(現在の阪神ジュベナイルフィリーズ)であの名牝エアグルーヴを相手に見事な逃げ切り勝ちを収めます。
3歳(今の2歳)女王に輝いたビワハイジは、クラシックでも主役として活躍することが期待されていました。しかし、4歳初戦のGⅢチューリップ賞でエアグルーヴに5馬身もの差を付けられて2着に敗れます。そして、エアグルーヴが熱発で回避したGⅠ桜花賞では、2番人気に推されながらまさかの15着に惨敗。
4歳以降の不可解な敗戦の連続に、ファンはオークスでもビワハイジの好走は厳しいと見ていました。そこに飛び込んだ「ビワハイジ、日本ダービー挑戦」のニュース。
ファンは耳を疑ったはずです。「オークスすら難しい状況なのに、ましてダービーなど・・・」無謀な挑戦とも思える第63回日本ダービーは、1番人気の超良血馬ダンスインザダーク(のちの菊花賞馬)を2戦2勝の7番人気フサイチコンコルドが直線一気で差し切るという鮮烈なレースになりました。
10番人気という低評価を受けてダービーに出走したビワハイジは、終始後方で見せ場のないままフサイチコンコルドから1.8秒差の13着に惨敗しました。しかも、レース後に骨折が判明。ビワハイジのダービー挑戦は何のインパクトも残せないまま終わってしまいました。
しかし、ビワハイジはこの後、ブエナビスタの誕生、そして、ダービー馬ウオッカの誕生にも関わることになります。
ここで、1つ大切な事実をお伝えしないといけません。
ビワハイジが挑戦したダービーの前週に同じ東京競馬場で行われた1996年のオークス。ここでは、桜花賞を回避したエアグルーヴが断然の1番人気に推され、エアグルーヴはその人気に応えて見事にオークスを制しました。このときのエアグルーヴの勝ちタイムは2分29秒1。そして、ビワハイジのダービーの走破タイムは2分27秒9(フサイチコンコルドの勝ちタイムは2分26秒1)。そう、エアグルーヴのオークスの勝ちタイムよりもビワハイジのダービーの走破タイムのほうが1秒以上も速いのです。
もちろん、単純にタイムだけを比較することで馬の能力を計ろうとすることがナンセンスであることは承知していますが、「ビワハイジがもしオークスに出走していたら・・・」「骨折がなかったら・・・」と考えると、決してビワハイジがダービーに挑戦することが無駄だったとは言い切れないと思うのです。というより、この年の牡馬のレベルが異常に高かった可能性があるということが重要です。その証拠に、骨折で皐月賞とダービーを回避した4歳牡馬のバブルガムフェローが、同じ年の天皇賞・秋でサクラローレルやマヤノトップガン、マーベラスサンデーといった並み居る古馬たちを負かしてしまったのですから。
第81回(2014年) 12着 レッドリヴェール
なんと、レッドリヴェールは2歳時にビワハイジと全く同じ戦績をたどることになります。
6月の新馬戦(1,600m)、8月の札幌2歳ステークス(芝1,800m)とデビュー2連勝。3戦目のGⅠ阪神ジュべナイルフィリーズでは圧倒的1番人気のハープスターと大接戦を演じて見事に勝利します。
ビワハイジと違ったのは、レッドリヴェールはチューリップ賞を使わずに桜花賞へ直行し、ハープスターとタイム差なしの2着と好走したところ。
当然、オークスでの巻き返しをファンも期待していたと思いますが、レッドリヴェールはまさかのダービー参戦。しかも、その結果次第で凱旋門賞にも挑戦するという壮大なプランでした。当時の記事などを読んでもダービー参戦の決定的な理由はわかりませんでしたが、ハープスターとの対戦を避けたという見方があるようです。つまり、ハープスターは2歳時にのちの皐月賞馬イスラボニータを3馬身ちぎって完勝しており、「ハープスターよりも牡馬相手のほうが勝機があるのでは?」ということです。
しかし、ダービーでレッドリヴェールは4番人気に推されながら結果は13着に惨敗。結局、凱旋門賞挑戦のプランは白紙となり、秋以降も目立った成績を挙げることはできませんでした。
ちなみに、ダービーを勝ったのは横山典弘騎手騎乗のワンアンドオンリー。皐月賞4着からの巻き返しVでした。皐月賞馬イスラボニータは4分の3馬身差で2着。・・・待てよ?後方一気で追い込んだ横山騎手が皐月賞で4着、共同通信杯1着から臨んだイスラボニータが皐月賞1着。今年の皐月賞となんか似てるなあ(意味深)。
それよりも、この年も牡馬と牝馬のレベルを比較すると、1996年と同じように牡馬のレベルがかなり高かった可能性があるとわかりました。
この年(2014年)のオークスの勝ちタイムは2分25秒8。そして、レッドリヴェールのダービーの走破タイムも2分25秒8。そう、全くの同タイムだったのです。繰り返しますが、タイムだけを比較するのはナンセンスですが、事実は事実です。何より、この世代でダントツの実力と見られていたハープスターがオークスで2着に敗れてしまったのですから。
3歳牡馬のレベルの高さでいうと、皐月賞馬のイスラボニータが同じ年の天皇賞・秋で3着に入ったほか、皐月賞2着馬のトゥザワールドが同じ年の有馬記念で最強牝馬ジェンティルドンナの2着に入る活躍を見せています。また、同じ世代の牡馬には古馬になってGⅠを勝つことになるモーリス、ミッキーアイル、ゴールドアクターといった錚々たるメンバ―がいます。
第88回(2021年) 5着 サトノレイナス
この流れでくれば、どんな結論になるのか大体わかりますね?
では、サトノレイナスはどうだったか?
サトノレイナスも6月の新馬戦でデビュー勝ちを収めると、続く1勝クラスのサフラン賞も連勝。そして、3戦目でやはりGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズを走って、「白毛のアイドル」ソダシとの接戦の末に2着に敗れてしまいます。
サトノレイナスは、レッドリヴェールと同じく桜花賞へ直行することになりますが、ここでもソダシの後塵を拝して2着。ソダシはデビューから5連勝を飾ります。
サトノレイナスがダービーに出走することになった経緯は、どうやらサトノレイナスを管理する国枝栄調教師がどうしてもダービーを勝ちたい(注:現時点でもダービー未勝利)ということで、ルメール騎手と馬主の里見治氏に出走を提案したのだそうです。
ダービー当日はなんと2番人気に推されたサトノレイナスでしたが、レースでは後方から追い込むも5着に敗退。そして、このレースを最後に、サトノレイナスは引退してしまいました。
勝ったのは、皐月賞を回避して毎日杯から参戦した4番人気のシャフリヤール。単勝1.7倍という断然の1番人気に推された皐月賞馬のエフフォーリアはハナ差で2冠を逃すことに。
そして、オークスとダービーのタイムを比較すると、やはりここでも牡馬のレベルの高さがうかがえます。
単勝1.9倍の1番人気でオークスに臨んだソダシは8着と惨敗。オークスを勝ったのは桜花賞を回避してフローラS3着から参戦したユーバーレーベンで、勝ちタイムは2分24秒5。これまで見てきたオークスの中で最も速いタイムですが、なんとサトノレイナスのダービーの走破タイムは2分22秒7。2秒近くもサトノレイナスのタイムが速かったのです。
この年の3歳牡馬は一部のファンの間で「F4世代」(エフフォーリア世代)と呼ばれ、この世代こそ最強ではないかという議論が起こっているくらい、活躍ぶりが際立っています。2冠を逃したエフフォーリアは、3歳秋に古馬との戦いを選択。3冠馬コントレイルやGⅠ馬グランアレグリア、クロノジェネシスらを相手にエフフォーリアは天皇賞・秋と有馬記念を制するという偉業を成し遂げました。そして、4歳になると菊花賞馬タイトルホルダーは天皇賞・春と宝塚記念を制し、ダービー馬シャフリヤールはドバイシーマクラシックを制する活躍ぶり。クラシックホース以外にも、ジャックドール、レモンポップ、ペプチドナイル、テーオーロイヤルなど5~6歳になってGⅠを勝つ馬が続出しています。
ダービーを勝てなかった3頭の共通点は「早熟」で「同世代の牡馬が強い」
ここまでの3頭(ビワハイジ、レッドリヴェール、サトノレイナス)の解説を見ていただければ、もうおわかりだと思いますが、3頭の共通点は以下の2点です。
1点目は、馬の成長曲線が早熟型であるということ。なんと、3頭とも2歳(旧3歳)の6月にデビューし、その年のGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズ(旧阪神3歳牝馬S)で1着または2着に入る活躍をしています。サトノレイナスに関しては骨折による引退なので、もしかするとその後に活躍していたかもしれませんが、それにしても3頭とも3歳春~夏以降にパタッと走らなくなっています。
2点目は、同世代の牡馬のレベルが高かったということ。ダービーとオークスの単純なタイム比較でもその傾向が見られますし、3歳で天皇賞・秋や有馬記念に出走して勝ち負けする牡馬が同世代にいたこともこのことを裏付けます。
では、ウオッカにこれらの共通点が当てはまるのでしょうか?
ウオッカには負けた牝馬3頭の共通点が当てはまらない
先ほどの疑問点、「早熟」で「同世代の牡馬が強い」という3頭(ビワハイジ・レッドリヴェール・サトノレイナス)の共通点がウオッカに当てはまるのか?ということについて、答えは「NO」ということになります。
ウオッカの成長曲線は「遅め(持続型)」
確かにウオッカも2歳でデビューし、阪神ジュベナイルフィリーズを勝っていますが、本格化は4歳からでした。
では、なぜウオッカは2歳や3歳でも活躍できたのか?それは、同世代で飛び抜けて高い能力を持っていたからです。これは、同世代のライバルであるダイワスカーレットにも言えます。
このチューリップ賞と桜花賞の2頭のマッチレースを見ていただければ、特に言葉はいらないと思います。
桜花賞後、ウオッカはダービーへ。そしてダイワスカーレットはオークスへ向かうはずでしたが、熱発によりオークスは回避してしまいます。秋華賞で再戦した2頭でしたが、ここはダイワスカーレットが横綱相撲で2冠を達成。
ウオッカは、ダービー以降は1回も勝てないまま4歳を迎えます。しかし、3歳で出走したジャパンカップでアドマイヤムーンやメイショウサムソンとの接戦を演じて4着に入り、能力の高さは見せていました。
そして、ようやくウオッカの覚醒を見ることができたのは4歳の安田記念。牡馬や海外馬相手に3馬身半差の完勝でした。
その後の活躍は皆さんもよくご承知でしょう。天皇賞・秋でダイワスカーレットに雪辱を果たし、翌5歳にはヴィクトリアマイルの7馬身差圧勝、そして安田記念の連覇、ジャパンカップ制覇と、名馬ウオッカの恐ろしいまでの強さはやはり4歳春以降に完成したのです。
ウオッカ世代は3歳牝馬のレベルが高かった
ウオッカが勝った日本ダービー。1番人気は皐月賞3着のフサイチホウオー、2番人気は皐月賞馬のヴィクトリー、ウオッカは単勝10.5倍の3番人気でした。結果は、フサイチホウオー7着、ヴィクトリー9着。この2頭は、結局ダービー以降に目立った活躍はできずに引退することになり、きっと早熟型の馬だったのでしょう。
このダービーに出走した牡馬の中で、のちにGⅠを勝つことになるのは5着のドリームジャーニーと13着のローレルゲレイロで、いずれも本格化は5歳になってからという晩成(持続型)の馬でした。
一方、ダイワスカーレットは3歳でエリザベス女王杯に出走して古馬相手に完勝し、次走の有馬記念では接戦の末2着に入りました。
そして、ウオッカもダイワスカーレットも出走しなかったオークス(優勝馬ローブデコルテ)の勝ちタイムは2分25秒3。ウオッカのダービーの走破タイム(勝ちタイム)は2分24秒5。もちろん、ウオッカもすごいのですが、なんとオークスの勝ちタイムはダービー3着馬アドマイヤオーラの走破タイムと同じです。
アドマイヤオーラといえば、2歳時からダイワスカーレットと互角の戦いを見せて期待が大きかった有力馬。3歳になってシンザン記念、弥生賞と重賞を2連勝して1番人気で臨んだ皐月賞は惜しくも4着に敗れていました。そして、これも何の因縁なのか、アドマイヤオーラのお母さんは、10年前に果敢にダービーに挑戦したビワハイジだったのです。ビワハイジの息子が、目の前で牝馬の歴史的なダービー制覇を目撃することになったのでした。
もちろん、ウオッカとダイワスカーレットの2頭は能力がずば抜けていましたが、3歳牝馬全体のレベルも高かったし、3歳牡馬のレベルが低かったとも言えるでしょう。
レガレイラのダービー制覇は50/50(フィフティー・フィフティー)
これまで牝馬のダービー挑戦の歴史を見てきましたが、ウオッカがダービーを勝てた理由とその他の牝馬たちが負けた理由が何となくわかってきた気がします。
つまり、「成長曲線が遅め(持続型)で、同世代の3歳牝馬のレベルが高い馬はダービーを勝てる」という仮説です。
では、今年2024年の日本ダービーに挑戦するレガレイラはウオッカ以来の牝馬によるダービー制覇を果たすことができるのでしょうか?
筆者の結論は、50/50(フィフティー・フィフティー)、つまり五分五分ということです。
レガレイラは早熟の可能性もある
レガレイラがデビューしたのは2歳の7月。そう、かなり仕上がりは早かったほうです。
そして、阪神ジュベナイルフィリーズには出走せず、同じ12月に開催された牡馬・牝馬混合の2歳GⅠホープフルステークスに出走。結果は見事な末脚を見せて1着。
ここまで見ると、あたかもビワハイジやレッドリヴェールらと同じ道を歩んでいるように見えますが、たまたまデビューが早かっただけで、ウオッカと同じ道を進む可能性もあるかもしれません。
問題は2点。
1点目は、前走の皐月賞6着という結果をどう考えるか?これを「成長が止まった」と見るか、それとも「成長途上」あるいは「本調子でなかった」と取るかで方向性が変わります。これについては、正直に言って、ダービーが終わってみないと判断ができないということになります。筆者個人的には、以下の過去記事で書いたように「本調子でなかった」とは推察しているのですが、正しいかどうかはわかりません。
2点目は、血統的に早熟の可能性があるということ。まず、母ロカは2歳の新馬戦でデビュー勝ちし、2戦目の阪神ジュベナイルフィリーズでは1番人気に推されたほど早くから期待されていました(結果は8着)。しかし、3歳になってからはクイーンカップ3着、チューリップ賞4着、忘れな草賞2着といった成績を残しながら結局1勝もできずに引退してしまいます。
そして、心配は父スワーヴリチャード。現3歳世代がファーストクロップ(最初の産駒)ですが、2歳時から産駒がガンガン勝ち上がって、ついにはコラソンビートが京王杯2歳Sを勝ち、そしてレガレイラがホープフルSを勝つという優秀ぶり。3歳からもスウィープフィートがチューリップ賞、アドマイヤベルがフローラSを勝つなど、産駒の活躍が続いています。「何が心配なの?」と思われるかもしれませんが、あまりにも仕上がりが早い上に、クラシックで勝ち負けできる馬がいないので、「早熟な馬ばかり産まれてるのか?」という疑念が出て来るのです。レガレイラや同じくスワーヴリチャード産駒のアーバンシックがダービーで勝ち負けするようなら、この疑念も晴れるのですが・・・。
現3歳世代のレベルはやや牡馬が優位
昨年(2歳)時点では、現3歳世代の牡馬と牝馬でというと牝馬のほうがレベルは高かったと思います。理由としては、主に以下の3点からです。
- レガレイラが牡馬相手にGⅠホープフルステークスを勝利
- 同じコースで行われたGⅠ阪神ジュベナイルフィリーズの勝ちタイムは1分32秒6、朝日杯フューチュリティ―ステークスは1分33秒8で、前者のタイムが1秒近く速い
- 朝日杯フューチュリティステークスに出走した牝馬タガノエルピーダ(オークス16着)が同レース3着
その他にも、アスコリピチェーノが新潟2歳Sを、コラソンビートが京王杯2歳Sを牡馬相手に完勝したことで、よりその印象は強くなりました。しかし、よく思い出してください。レッドリヴェールと同世代のハープスターは、新潟2歳ステークスで皐月賞馬イスラボニータに完勝していました。一般的に、牡馬よりも牝馬のほうが成長が早いと言われています。そう、2歳時の成績ではなく、3歳時の成績で比べないと牡馬と牝馬のレベルを公平に計ることはできないと考えるのです。
では、現3歳世代の3歳時における牡馬・牝馬混合重賞レースの成績を見てみましょう。
- 現3歳世代の3歳牡馬・牝馬混合重賞レース(クラシックのトライアルレース除く)の成績
- GⅢシンザン記念 1着ノーブルロジャー(牡馬) 牝馬最先着:ラーンザロープス4着
GⅢ京成杯 1着ダノンデサイル(牡馬) 牝馬不出走
GⅢきさらぎ賞 1着ビザンチンドリーム(牡馬) 牝馬不出走
GⅡ共同通信杯 1着ジャスティンミラノ(牡馬) 牝馬不出走
GⅢファルコンS 1着ダノンマッキンリー 牝馬最先着:キャプテンネキ12着
GⅢ毎日杯 1着メイショウタバル(牡馬) 牝馬最先着:ルシフェル7着
GⅡNZT 1着エコロブルーム(牡馬) 牝馬最先着:ボンドガール2着
GⅢアーリントンC 1着ディスペランツァ(牡馬) 牝馬不出走
GⅠ皐月賞 1着ジャスティンミラノ(牡馬) 牝馬最先着:レガレイラ6着
GⅢユニコーンS 1着ラムジェット(牡馬) 牝馬不出走
GⅠNHKマイルC 1着ジャンタルマンタル(牡馬) 牝馬最先着:アスコリピチェーノ2着
うーん、微妙ですね。
ニュージーランドトロフィー(NZT)2着のボンドガールは2歳時から高く評価されていた牝馬ですが、本番のNHKマイルカップは17着に敗れました。そのNHKマイルカップで2着に敗れた2歳女王のアスコリピチェーノは、同レースで前が壁になる不利がありましたので、ガチンコで勝負すればジャンタルマンタルにも引けを取らない実力はあるでしょう。この2レースを除いては牡馬勢が完全に優位な結果となっています。
ちなみに、ウオッカの世代(2007年)で見ると、ダイワスカーレットがシンザン記念で2着(1着はアドマイヤオーラ)に、また、古馬になって短距離重賞を3勝したカノヤザクラがファルコンSで2着に入り、3歳になってからも牝馬が重賞で活躍を見せていました。
しかし、レッドリヴェールの世代(2014年)やサトノレイナスの世代(2021年)には3歳重賞で活躍した牝馬は見当たりませんでした。ビワハイジの世代(1997年)では、「バラ一族」として有名なロゼカラーがシンザン記念で2着に入っていますが、この馬はデイリー杯3歳Sを勝つなど早くから重賞戦線で活躍していた馬で、クラシックでは秋華賞3着が最高順位。古馬との初対戦となったエリザベス女王杯で13着に惨敗したあと4歳(今の3歳)で引退し、この馬も早熟の傾向がありました。やはり、牡馬も含む3歳重賞で早熟でない牝馬が活躍するということが3歳牝馬のレベルの高さを計る1つの指標のように考えられます。
最後に、今年のオークス(1着チェルヴィニア)の勝ち時計2分24秒0はオークス歴代6位の好タイム。タイムの上位には、アーモンドアイやジェンティルドンナ、リバティアイランドなどの3冠牝馬のほか、ラブズオンリーユーやスターズオンアースといった名牝たちが名を連ねています。これだけを見ると、今年の3歳牝馬のレベルは歴代でもかなり高い可能性がありますが、忘れてはならない事実が。なんと、今年の皐月賞(1着ジャスティンミラノ)の勝ち時計1分57秒1は皐月賞歴代1位のタイム!3冠馬のディープインパクトやナリタブライアンのタイムを2秒も上回る驚愕のコースレコードです。タイムだけ比較しても仕方がないのですが・・・今年の3歳牡馬は牝馬以上に世代レベルが高い可能性も考えられます。
以上、総合的に考えると、3歳に入ってからは牝馬よりも牡馬のほうがややレベル的に優位と見ます。
レガレイラが勝てるかどうかは調子と成長力次第
過去の歴史と照らし合わせると、レガレイラのダービー制覇は難しいように思えてきます。
しかし、筆者としては、前述のとおり皐月賞は本調子でなかったと見ていますし、そんな中でも1分57秒6という走破タイムを上がり最速の末脚(3F33秒9)で記録した事実は大きいと思っています。
少なくとも2歳時点ではウオッカと同じくらいの実力を見せていたと思いますので、あとは早熟でないこと、つまり成長力を発揮して牡馬に匹敵する力を身につけてさえいればダービー制覇も現実に近づくはずです。
その確率は、正直に言って半々、50/50(フィフティー・フィフティー)だと筆者は考えています。