オグリキャップは、なぜ競馬ブームを起こすほどに多くのファンを惹きつけ、人間の心を動かすのか。そのキーワードに、「涙」があるのではないか?
まず明確に言えることは、自分自身がオグリキャップのことを知る中で、何度となくウルっときてしまう瞬間があった。 オグリキャップを生で見たことはないのに、リアルタイムで見たことはないのに、その物語を知り、オグリキャップに関わった人たちの話を本で読んだだけでも、涙が出そうになるくらい感動するのだ。
なぜ、そこまで感動するのか。 そのヒントは、やはり”涙”だ。
例えば、4歳(旧馬齢表記では5歳)時のマイルチャンピオンシップ。 鞍上は関西の1、2位を争う名手の南井克巳(みないかつみ)だったが、前走の天皇賞秋では前が壁になって追い出しが遅れた結果、惜しくもスーパークリークの2着に敗れていた。 マイルチャンピオンシップでも若干仕掛けが遅れたオグリキャップだったが、逃げるバンブーメモリーをゴール寸前で捕まえて差し切り勝ちを収めた。
南井騎手は涙をボロボロ流して、「天皇賞の借りを半分しか返せていない。ジャパンカップで倍にして返したい」とオグリキャップへの感謝の言葉をレース後のインタビューで語っていた。 おそらく、「また負けてしまうか」と思ったところで、オグリキャップは最後まで諦めずに、並外れた勝負根性で勝ってくれた、というところに純粋に感動したのだろう。
このレースだけ見れば、「なぜ泣いてまで?」と思ってしまうが、天皇賞の経緯や、その前の毎日王冠のレースなど最後まで諦めない姿を何度も見せられると、オグリキャップが人間の心を動かす理由が少しわかる気がする。
一番象徴的なのは、池江厩務員(いけえきゅうむいん)の言葉だ。
マイルチャンピオンシップ後、オグリキャップは連闘でジャパンカップに臨んだ。 当時は厳しいローテーションに批判も多かったようだし、池江厩務員も「かわいそうな気もした」と言っていた。
しかし、オグリキャップは世界の強豪相手にクビ差の2着。しかも、世界レコードを記録したのだ。 池江厩務員は「本当にこいつはようやってくれるわ」と涙が止まらなくなったという。
誰もが、なぜここまで強いのか、なぜここまで一生懸命走るのか、不思議に思いつつも、彼のひたむきさ、健気さ、純朴さに心を動かされるのだ。 あたかも、どんな逆境にも諦めず歯を食いしばって生き続ける人間の姿を見ているように、オグリキャップを自分自身の姿と重ね合わせて「自分ももっと頑張らなきゃ」と思わせてくれる、そういう存在だったのかもしれない。
