【英文学】ディック・フランシスの競馬推理小説「Forfeit(罰金)」【英語#4】

【英文学】ディック・フランシスの競馬推理小説「Forfeit(罰金)」【英語#4】

英語の第4回は、英文学。

今回は、ディック・フランシスの競馬推理小説「Forfeit(罰金)」について、中学生でも理解できるよう分かりやすく解説していきます。

ディック・フランシス

ディック・フランシスは元障害ジョッキーのイギリス人ミステリー作家

ディック・フランシスは、1920(大正9)年にイギリスのウェールズで生まれたミステリー作家、作家になる前は競馬の障害レースの名ジョッキー(騎手)だったという異色の経歴を持っています。

2010年に89歳で亡くなるまでの間、42冊の小説と多数の短編小説を執筆。
ミステリー作家としてのデビュー作となった1962年の「Dead Cert(本命)」はイギリスで映画化(映画の邦題は「大本命」)されたほか、その後の作品もアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)や英国推理作家協会賞のゴールド・ダガー賞を受賞するなど、まさにミステリー小説界の超一流作家だったのです。
その活躍と栄誉を称えて、1984年と2000年には大英帝国勲章が授与されています。

ただ、先ほども述べたとおり、ディック・フランシスは最初からミステリー作家だったわけではありません。

1941年にイギリス空軍に入隊すると、第二次世界大戦中は戦闘機パイロットとして文字どおり死闘を繰り広げていました。
戦後、空軍を除隊すると、1946年に「ナショナル・ハント」という日本で言うところの障害レースの騎手になります。1948年にアマチュアからプロに転向すると、通算350勝以上の勝利を挙げ、1954年にはイギリスのチャンピオンジョッキーにまで登り詰めました。
当時はエリザベス皇太后の所有馬でレースに出場することも多く、1956年の「グランドナショナル」という最も権威のある障害レースで、エリザベス皇太后の所有馬「デヴォンロック」に騎乗したディック・フランシスが、ゴール寸前で落馬・競走中止してしまったというエピソードは、彼を語る上で欠かせない逸話となっています。

1957年に騎手を引退したディック・フランシスは、「サンデー・エクスプレス」というロンドンのタブロイド紙の競馬担当記者となってライターとしての活動を開始(1973年まで記者を継続)。同じ年に自伝「The Sport of Queens(女王陛下の騎手)」を発表して、小説家としての才能を開花させます。
以後、ディック・フランシスは騎手時代の経験や知識と、生まれ持った独特の感性で「競馬推理小説」という唯一無二のミステリー作品を世界中に届けることになったのです。

ディック・フランシスの死後は、その息子のフェリックス・フランシスがディックの意志を引き継いで「ディック・フランシスシリーズ」の執筆を行っています。

「Forfeit(罰金)」

先ほども述べたとおり、ディック・フランシスの代名詞と言えば「競馬推理小説」、すなわち、競馬を題材にした推理(ミステリー)小説ということになります。

ディック・フランシスが創る競馬推理小説とはどんな作品なのか、そして、どんな世界観や楽しみを競馬ファンに提供してくれるのか。その一片を、彼の代表作「Forfeit(罰金)」を紹介しながらお伝えします。

ちなみに、1968年に発表されたこの作品は、1970年にエドガー賞 長編賞を受賞しています。

あらすじ

舞台は1960年頃のイギリス。
主人公のジェイムズ・タイローン(あだ名は「タイ」)は、イギリスの競馬業界では知る人ぞ知る競馬記者で、特定の会社に所属せず、得意の暴露記事を各紙に売り込んで収入を得ていた。正義感の強いタイは、競馬界の不正を見つけると、執拗に追いかけ、追い詰め、その不正を大々的に紙面上で晒し上げるのである。

そんなタイに、とある障害レースの特集記事を書いてほしいという依頼が入る。あまり気が乗らない仕事ではあったが、依頼を承諾したタイは、ある1人の競馬記者の不審死をきっかけに、そのレースがイギリス競馬界にはびこる闇の組織に狙われていることを知る。

タイは、特集記事の依頼を受けた日に、いきつけのバーで知り合いの競馬記者と遭遇する。その記者は泥酔しており、タイに「忠告だ。絶対に自分の魂を売るな。自分の記事を金にするな」と繰り返し告げていた。
何を言っているのかわからなかったタイだったが、その泥酔した記者が直後にビルから転落死したことを知り、その記者の言葉が頭から離れなくなる。

特集記事を書くためにレースの出走馬を取材していたタイは、そのうちの1頭である「ティドリィ・ポム」という馬の生産者の家で、転落死した競馬記者の記事を目にする。死亡した記者は、ティドリィ・ポムがレースの本命だと記事に書いていたのだ。
その記事は、まさに記者が不審死を遂げたその日に掲載されたものであった。

勘の鋭いタイは、死亡した記者が過去に書いた記事を調べ上げ、その記者が本命に推した馬たちが、ことごとくレース直前になって出走を取り消していた事実にたどりつく。
出走を取り消した馬に前もって賭けられたお金は、馬券購入者に返金されず、その馬券を売った賭け屋たちの収入になる仕組みだ。

タイは、賭け屋の誰かが”あらかじめ出走を取り消すことがわかっている馬(=ティドリイ・ポム)”について大々的に煽る記事を書くよう死亡した記者に強制したのではないか、と推理した。
タイは、持ち前の正義感と執念でついに死亡した記者を脅迫した正体――闇の組織――を突き止め、標的になったティドリイ・ポムを保護することに成功したのだが、今度はタイが脅迫を受けることになる。
タイの妻は小児麻痺にかかって寝たきりの状態で、妻の命と引き換えにティドリイ・ポムの居場所を教えるよう要求してきたのである。

果たして、ティドリイ・ポムは無事にレースに出走することができるのか?そして、タイと家族の運命は?

見どころ

「Forfeit(罰金)」はミステリーというよりアクション・スリラー

「Forfeit(罰金)」の見どころは、ズバリ「どこまでも追いかけてくる闇の組織から逃げ切れるかどうか?」というハラハラ・ドキドキ感を存分に味わえるところだと言えます。
この小説は「金のためなら人殺しでも何でもやる」という狂気に満ちた人間たちに追い詰められる恐怖感・絶望感を”これでもか”と読者に植え付けたうえで、それでも正義感の強い主人公が執念と知恵を武器に困難な状況を次々に打開していく痛快さも味わわせてくれます。
そして、競馬レースにかける関係者の想いと大切な家族の命を懸命に守ろうとする主人公の姿に、読者は感動せずにはいられないでしょう

「競馬推理小説」という言葉から連想されるイメージとは異なり、小説の後半からは主人公を取り巻く状況が目まぐるしく入れ替わり、心臓のドキドキと冷や汗が止まらない緊迫した展開が終盤まで続きます。中にはカーチェイスのシーンなどもあり、「一瞬たりとも目が離せない」というのは、まさにこのことでしょう。

ジャンル的にいうと、「007(ダブルオーセブン)」シリーズや「ミッション:インポッシブル」シリーズのようなアクション・スリラー映画に近い感じがしますし、日本の人気アニメ「名探偵コナン」にも近い気がします。
ミステリー小説の王道は「殺人トリックと犯人が誰かを推理して楽しむ」ということだと思いますが、「Forfeit(罰金)」に関しては、人間のリアルな怖さ激しいアクションシーンをドキドキしながら楽しむことに主眼を置いた作品だと言えます。

なぜ、これだけ読者に臨場感のあるスリルを味わわせることができるのかと言えば、それは、ディック・フランシス自身の経験によるところが大きいでしょう。
先に述べたように元はイギリスのチャンピオンジョッキーですから、競馬場、厩舎などの風景や雰囲気、馬や騎手、調教師などの人物の描写に関しては非常にリアルですし、自身が現役の競馬記者ですから、特ダネの取り方、デスクや他の記者と交わす言葉、暴露記事を世の中に出すまでのプロセスまでかなり細かく描写されています。
競馬ファンであれば、誰もがその世界に引き込まれるでしょうし、競馬ファンでなくとも、そのリアルでシリアスな雰囲気に魅了されるはずです。

ぜひ、下記のリンクから「Forfeit(罰金)」をお楽しみください。

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作品を楽しむための予備知識――ブックメーカー(賭け屋)

もちろん、いきなり小説を読み始めても楽しめる作品ですが、より作品を楽しむための予備知識として、イギリス独特の馬券発売方式である「ブックメーカー」について理解しておくとよいでしょう。

作品の中では「賭け屋」と表現されていましたが、おそらく「ブックメーカー」を指しているものと思われます。
ブックメーカーを俗っぽく訳すと「賭け屋」ということになるのでしょうが、より正確に言えば、イギリス政府が公認した民間馬券販売業者がブックメーカーです。
詳しくは以下の記事で解説していますので、ご覧ください。

作品内では闇の組織として描かれていますが、一応公認された業者なので、ブックメーカー(賭け屋)たちは競馬場で堂々と馬券を売ることができます。
しかし、ハズレ馬券や出走取消の馬券が自分たちの収益になるわけですから、悪質な業者は詐欺や脅迫などの手口を使って不正に儲けようとするのでしょう。

ちなみに、日本やアメリカではブックメーカー(賭け屋)による馬券発売は禁止されています
日本では「競馬法」という法律で、いわゆる「ノミ行為」も含めて民間による馬券発売を禁止しているのです。
詳しくは以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。

参考サイト

Felix Francis https://www.felixfrancis.com/index.php?page=Home

Britannica「Dick Francis」 https://www.britannica.com/biography/Dick-Francis

公益財団法人ジャパン・スタッドブック・インターナショナル「伝説的障害騎手で小説家のディック・フランシス氏死去(イギリス)[その他]」 https://www.jairs.jp/contents/newsprot/2010/7/1.html

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