
社会の第1回は、公民。
今回は、「競馬法」という法律について、中学生でも理解できるよう分かりやすく解説していきます。
「競馬法」とは

「競馬法」という法律を知っている競馬ファンは少ないでしょうし、そもそも、競馬に関する法律があること自体、一般人にとっては想像もつかないことかもしれません。
野球やサッカーなどのスポーツには、公式ルールはあったとしても、「野球法」や「サッカー法」といった個別の法律は存在しません。
では、なぜ競馬には法律があるのか?
それは、ずばり「競馬がギャンブルだから」です。
競馬法が制定された目的は、法律に明記されているわけではありませんが、実質的には馬券(ギャンブル)を合法化するためだと言えます。
さらに言えば、馬券の売上げを国や地方自治体の収入源とするために、その法的根拠を競馬法に求めたわけです。
競馬法があるおかげで、我々競馬ファンは安心して合法的に馬券を買うことができるし、また、国や地方自治体は馬券の売上金の一部を様々な政策の財源として合法的に活用できるようになっています。
ちなみに、馬券の正式名称は「勝馬投票券」といいますが、これも競馬法の中で定められている法律用語です。
勝馬投票券については以下の記事で詳しく解説しています。
「賭博」は刑法で禁止されている犯罪

いわゆるギャンブルには、「賭博(とばく)」と「富くじ(とみくじ)」があります。
賭博と富くじは、いずれも「刑法」という法律で原則禁止されている犯罪行為です(刑法第185条、187条)。
賭博とは、2人以上の者が何か偶然に起こることにお金を賭けて、「得した」「損した」という両方の状況を争うものをいいます。
最近、オンラインカジノで検挙される有名人が多いようですが、これはオンラインカジノが賭博だからであって、まぎれもない犯罪だからです。
ですから、遊びであっても麻雀やトランプなどにお金を賭けることは賭博(犯罪)にあたるので決してやってはいけませんが、例えば「負けた人がご飯をおごる」程度の賭けであれば例外的に違法とはならないようです。
では、競馬で馬券を売ったり買ったりすることは、賭博にならないのでしょうか?
結論的には、馬券はグレーに近いシロということになります。つまり、馬券の売買によって刑罰を受けることはありませんが(下記の「違法な馬券」を除きます)、「賭博ではない」とも言い切れないということです。
まず、国(政府)の法律の解釈として、「馬券は賭博ではなく、富くじである」というものがあります。
富くじとは、簡単に言うと「発売者(胴元)が絶対に損をしないギャンブル性のある”くじ“」のことで、代表的なものが「宝くじ」です。
宝くじの発売者(都道府県と政令市)は、売上金の約半分を当せん者に当せん金として分配し、残り半分の売上金を発売者の収益とすることができます。つまり、宝くじの発売者は絶対に損をしないのです。
日本競馬の馬券も、発売者(競馬の主催者)が絶対に損をしないよう「パリミュチュエル方式」や「控除率」といった仕組みを採用しているため、宝くじと同じ「富くじ」だと解釈されているようです。
詳しくは、以下の記事で解説していますので、こちらをご覧ください。
富くじは刑法で禁止されているのに、なぜ国内で宝くじや馬券を売買できるのかというと、特例によって刑法の適用を免れているからです。
そして、その特例こそが競馬法なのです。
馬券は「広義の賭博」
一方、賭博はというと、先ほども述べたとおり「得した」「損した」という両方の状況を争うものですので、賭けに勝ったものが得をし、負けたものが損をすることになります。ですから、胴元も含めて負けた時に損をするというのが刑法でいうところの賭博なのです。
しかし、よく考えて見れば、馬券にも「勝ち(得)」「負け(損)」があるわけで、胴元は絶対に負けないと言っても、馬券の購入者たちはお互いに勝ち負けを争っていることになります。
さらに言えば、賭博とされるものであっても、最終的には胴元が儲かるようにルールが設計されるわけですから、この理屈で「馬券は賭博ではない」とすることには若干納得がいかない感じもあります。
実はもう1つ、「馬券は賭博ではない」とする理屈があります。
すなわち、馬券は馬の勝敗にお金を賭けるものですが、ルーレットやトランプなどと違って、必ずしも偶然に起こることにお金を賭けているわけではないということです。
カジノでルーレットやトランプにお金を賭ける場合、「どの数字に球が落ちるか」「どのカードが出るか」という偶然によって勝敗が決まります。
一方、競馬レースにおける馬の勝敗は、馬自身の能力や体調、騎手・調教師の技術、さらにはコースや天候などによって大きく左右されます。
確かに運の要素もありますが、それ以上に馬の勝敗を当てるための要素がたくさんあるため、これらを研究することで一定程度は馬券が当たる確率を上げられるわけです。
仮に、どの馬にも等しくレースで勝つ能力があるのなら、どの馬が勝つかは偶然によって決まりますので、そこにお金を賭けることは賭博にあたるとも考えられます。現実には、そうではありません。
このあたりの考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。
「発売者は損をしないし、偶然に起こることにお金を賭けるわけでもないから、馬券は賭博とは言えないよね」という感じで、どんな理屈をこねてでも「馬券は賭博ではない」という方向に持っていこうとしたのは、他でもない日本政府でした。
日本では過去に馬券が禁止されていた時期があり、馬券を合法化するために当時の政府が現在の競馬法の前身にあたる「旧競馬法」を制定しようとした際に、このような議論が行われていたのです。
詳しくは以下の記事で解説していますので、そちらをご覧ください。
とはいえ、勝ち負けを争ってお金を賭けるという点では競馬もギャンブルの1つですし、「広義の賭博」という言い方もできるでしょう。
そして、ギャンブルには依存性がありますし、競馬場では歴史的に八百長などの不正やそういった不正に端を発した暴動も起こっているため、競馬でお金を賭けることに対して一定の制限を設けることも社会的には必要になります。
というわけで、競馬はギャンブルであるということを前提に、競馬と犯罪(賭博や富くじ)の線引きをするために、また、その線引きを厳しく取り締まるために競馬法が定められたのです。
「合法な馬券」と「違法な馬券」
競馬法を守っている限り、馬券を売ったり買ったりすることは合法です。
逆に言うと、競馬法を守らなければ、悪意がなかったとしても「違法な馬券」を売ったり買ったりしてしまうこと(犯罪)になります。そうなると、あとは警察の出番です。
「合法な馬券」を買って楽しむためには、競馬法についてよく知っておくべきなのです。
合法な馬券
競馬法によって認められている馬券、すなわち「合法な馬券」は以下のとおりです。
- 日本中央競馬会(JRA)が発売する馬券
- JRAの委託を受けた地方自治体・民間団体・民間業者が発売する馬券
- 地方競馬を開催する都道府県または指定市町村が発売する馬券
- 地方競馬を開催する都道府県または指定市町村の委託を受けた地方自治体・民間団体・民間業者が発売する馬券
JRA(中央競馬)と地方競馬の違いについては、のちほど説明します。
簡単に言うと、競馬場や場外馬券発売所(WINSなど)で買える馬券は合法ですし、JRAの「即PAT」や、「オッズパーク」「楽天競馬」といった委託業者からインターネットを通じて買える馬券も合法です。
最近は日本の馬が海外レースに出走することも多くなりました。
これらのレースのうち、競馬法により認められた一部のレースに関してはJRAが馬券を発売するケースもありますが、これももちろん合法です。
違法な馬券
「合法な馬券」以外の全ての馬券は、国内では「違法な馬券」となります。
具体的な例としては、以下のようなものがあります。
- JRAや地方競馬の主催者以外の者(私設馬券屋=ノミ屋)がこれらから委託を受けずに勝手に発売する国内レースの馬券
- JRAなど競馬法により認められた者以外の者が発売する海外レースの馬券
- 競馬法により馬券の発売が認められていない草競馬(ポニーレースなど)で発売される馬券
1や2のような違法な馬券を売ることを「ノミ行為」といい、この行為自体も競馬法により禁止されています(競馬法第1条の2第6項)。そして、ノミ行為だという認識があるかどうかに関わらず、ノミ行為により発売された馬券を買うことも競馬法により禁止されています(競馬法第27条)
一方で、2の海外レースに関しては、現地で公認された私設馬券屋が合法的に発売している馬券もあります。
代表的なものは、イギリスのブックメーカーです。
ブックメーカーに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
イギリスに行って現地でブックメーカーから馬券を買うことは違法ではありませんが、日本国内にいながらブックメーカーからネットで馬券を買うことは、オンラインカジノと同様に刑法上の賭博罪にあたる可能性があります。
3に関しては、草競馬をやること自体に違法性はありませんが、そこの参加者や観客にお金を賭けさせてしまうと、草競馬を開いた側も、お金を賭けた側も競馬法違反となって、処罰の対象になってしまいます。
「中央競馬」と「地方競馬」
先ほど述べたとおり、競馬を開催して馬券を発売できるのは、原則としてJRAまたは都道府県などの地方自治体に限られます。
このルールを定めているのも、競馬法です。
競馬法では、JRAが開催する競馬のことを「中央競馬」、地方自治体が開催する競馬のことを「地方競馬」と定めています。
中央競馬

中央競馬は、競馬法により12か所以内の競馬場で行うことができます。
2025年4月現在で行われている中央競馬は、以下の計10か所です。
- 中央競馬の10競馬場
- ・札幌競馬場(北海道)
・函館競馬場(北海道)
・福島競馬場(福島県)
・新潟競馬場(新潟県)
・中山競馬場(千葉県)
・東京競馬場(東京都)
・中京競馬場(愛知県)
・京都競馬場(京都府)
・阪神競馬場(兵庫県)
・小倉競馬場(福岡県)
中央競馬に関しては、競馬開催に関するほとんどの事務をJRAが自ら行っていますが、馬券発売など一部の事務については競馬法に基づいてグループ会社などに委託しています。
「WINS(ウインズ)」という場外馬券発売所の運営もそのうちの1つです。
JRAは、中央競馬で走る馬の登録をはじめ、馬主や勝負服の色の登録、中央競馬に所属する騎手や調教師の免許を、競馬法に基づいて行っています。
JRAについては、「日本中央競馬会法」という法律で細かいルールが定められていますが、これについてはまた別の機会に解説します。
地方競馬

地方競馬は、競馬法により北海道では6か所以内、その他の都府県では各2か所以内の競馬場で行うことができます。
2025年4月現在で行われている地方競馬は、以下の計17か所です。
- 北海道
- ・帯広競馬場(ばんえい競馬)※
・門別競馬場※
・札幌競馬場(JRAと共用)※
- 岩手県
- ・盛岡競馬場
・水沢競馬場
- 埼玉県
- ・浦和競馬場
- 千葉県
- ・船橋競馬場
- 東京都
- ・大井競馬場
- 神奈川県
- ・川崎競馬場
- 石川県
- ・金沢競馬場※
- 岐阜県
- ・笠松競馬場
- 愛知県
- ・名古屋競馬場
・中京競馬場(JRAと共用)
- 兵庫県
- ・園田競馬場
・姫路競馬場
- 高知県
- ・高知競馬場
- 佐賀県
- ・佐賀競馬場
※都道府県または市町村が直営する競馬場。その他の競馬場は地元競馬組合が運営。
地方競馬は、基本的に都道府県が開催することになっていますが、一部の市町村(指定市町村)も競馬法の特例によって開催しています。指定市町村のほとんどは、都道府県と一緒に競馬組合をつくって競馬を開催していますが、国内唯一の重種馬による競馬(ばんえい競馬)を行っている北海道帯広市は、市単独・直営で競馬を開催しています。
そして地方競馬には、競馬法に基づく統轄団体「地方競馬全国協議会(NAR)」が存在します。
NARは、JRAと同様に地方競馬で走る馬の登録や、騎手・調教師の免許などを行っています。
地方競馬を開催する地方自治体は、売上げの一部をNARへ納めることが競馬法で定められています。
なぜ中央競馬と地方競馬の2つの競馬が存在するのかについては、日本競馬の歴史について解説する際にあらためて経緯を見ていくことにします。
その他に競馬法で禁止されていること

繰り返しになりますが、競馬法は馬券を合法化するための法律であり、その目的を達成するためには、違法な競馬や馬券を厳しく取り締まることが求められます。
その一環として、競馬法では以下の者が馬券を買ったり譲り受けたりすることを禁止しています。
- 20歳未満の者(競馬法第28条)
- 一部の競馬関係者(競馬法第29条)
かつては20歳以上でも学生の場合は購入できなかったのですが、現在は学生かどうかは関係なく、年齢制限だけになっています。
成人年齢は18歳に引き下げられましたが、飲酒や喫煙と同様に馬券に関しても20歳未満は禁止されています。
競馬関係者については、例えば、JRA所属の騎手・調教師が地方競馬の馬券を買うことや、その逆のケースで馬券を買うことは認められますが、自らが関係する競馬の馬券を買うことは基本的に禁止されています(地方競馬に関しては所属競馬場だけでなく全国の地方競馬で購入禁止)。
もちろん、八百長などの不正を防止するためです。
ですから、馬券を買うのが好きだからと言って競馬関係の仕事に就職することは、自らの首を絞めることになるのでお勧めできません(ギャンブル依存を絶つためにはよいかもしれませんが)。
参考書籍
「近代日本の競馬-大衆娯楽への道」(杉本竜著、創元社)
「競馬の経済学」(渡辺隆裕監修、カンゼン)
「知っておきたい競馬と法」(大蔵省印刷局)
参考サイト
日本中央競馬会(JRA)
地方競馬情報サイト(NAR)
e-Gov 法令検索
農林水産省
経済産業省
総務省