
国語の第3回は、競馬用語解説。
今回は、「複勝式」と「控除率」の2つの用語について、中学生でも理解できるよう分かりやすく解説していきます。
複勝式(ふくしょうしき)

国語の第1回で、勝ち馬(1着馬)を当てる馬券の買い方が「単勝式」であることを解説しました。まだご覧になっていない場合は、以下の記事をご覧ください。
これに対して、「複勝式」は1着馬だけでなく2着馬や3着馬を当てた場合も的中となる馬券の買い方をいいます。ただし、1レースあたりの出走頭数が7頭以下の場合は、1着馬または2着馬を当てた場合に的中となります(3着馬は外れ)。
これも第1回で述べたとおり、レースで一番速い馬を当てる単勝式馬券は最もわかりやすくて、最も本質的な馬券の買い方と言えますが、複勝式馬券は本質的ではありつつも、より馬券購入者に優しい(簡単な)馬券の買い方と言えます。
当然ながら、1着馬をピタリと当てる馬券よりも、1着から3着までのどの着順に入っても当たりという馬券の方が的中する確率が高くなるわけです。
「(配当はともかく)とにかく馬券を当てたい」という競馬初心者の方は、ぜひ複勝式の馬券を購入してみてください。
しかし、競馬ファンの皆様はよくご承知のとおり、この複勝式馬券には配当が少ない(オッズが低い)という最大の欠点があります。
「オッズって何?」という方は、以下の記事をご覧ください。
上の記事で解説したとおり、人気が上がれば上がるほど(投票数が増えれば増えるほど)オッズが下がって配当(払戻金)も少なくなるのですが、複勝式に関しては人気がそれほどない馬券でも他の買い方(単勝式など)に比べて圧倒的にオッズが低いのです。人気馬なら1倍台や2倍台、人気薄の馬でもせいぜい10倍台といったオッズの設定となります。
ですから、複勝式で万馬券を当てることはほぼ不可能ですし、人気薄の馬を当てて喜んだのもつかの間、「え?これだけしか配当が付かないの?」ということもザラなのです。
なぜこのようなことが起こるのかというと、この後で解説する「控除率」の仕組みが関係します。
ちなみに、複勝式馬券の買い方は単勝式馬券と同じで、1着から3着までのどこかに入ると予想する馬の馬番を選んで購入します。
馬番については、以下の記事で簡単に解説しています。
例えば、馬番1番の馬を選んで馬券を買ったとすると、単勝式なら1番が1着に入らないと的中とはなりませんが、複勝式であれば1番が1着、2着、3着のいずれかに入れば的中となります。
ですから、配当は期待できませんが、単勝式と同様にどんな買い方をしたのか非常にわかりやすい馬券ですので、馬券が苦手な人ほど複勝式をうまく使いこなせるようになることをお勧めします。
複勝式は、馬券が当たる楽しさと初心者でも楽しめる気軽さが最大の魅力だと言えます。
控除率(こうじょりつ)

馬券が当たった時の払戻金や各馬券のオッズは、JRAなど競馬の主催者が勝手に決めていると思っているファンも多いかもしれません。
しかし、これは半分正しく、半分間違っています。
実は、馬券的中者に交付する払戻金の計算式は、競馬法という法律で明確に定められています。
競馬法については、以下の記事で詳しく解説しています。
どのような計算式なのかについては別の機会に解説しますが、この計算式に出てくるのが「控除率」という数字です。
控除率とは、簡単に言うと主催者側(胴元)の取り分のことです。
馬券の売上金から出走取消などによる返還金を差し引いた金額―売得金(ばいとくきん)と言います―に控除率を掛けて算出した金額を主催者側の収入(取り分)にして、残りの売得金を馬券的中者で按分(山分け)する、というのが払戻金の算出方法になります。
お気づきでしょうか?
そうです。競馬の主催者(JRAなど)は馬券の売上げに応じて一定の割合で必ず儲かる仕組みになっているのです。馬券的中者がどんなに大量に出ようと、競馬の主催者が損をすることはありません。
「賭けで儲かるのは胴元だけ」という言葉があるそうですが、競馬に関してもこの言葉が当てはまってしまうかもしれません。
ただ、このことを理由に競馬の主催者を批判するのは早計です。
なぜなら、馬券収入がなければ主催者はレースの賞金も、職員の給料も、施設の保守費用も払えなくなってしまうからです。
我々が毎週のように競馬を楽しむことができるのは、競馬ファンが熱心に馬券を買っているおかげだったのですね。
しかも、JRAは「日本中央競馬会法」という法律により馬券収入の一部を国に納めること(国庫納付)が定められています。馬券の売上げを国の畜産振興や社会福祉の施策に役立てるためです。
とはいえ、主催者側が不当に儲けてしまうことがないよう、控除率は最大30%までと定められています。裏を返すと、最低でも売得金の70%―控除率に対して「払戻率」と言われています―は馬券的中者に払戻金として交付されるわけです。
この範囲内であれば、主催者側で馬券ごとに独自の控除率を設定してよいことになっており、中央競馬に関しては馬券の買い方ごとに以下のような控除率が設定されています。
<中央競馬における控除率>
日本中央競馬会(JRA)ホームページ「馬券のルール」より
単勝式:20%(払戻率80%)
複勝式:20%(払戻率80%)
枠連:22.5%(払戻率77.5%)
馬連:22.5%(払戻率77.5%)
ワイド:22.5%(払戻率77.5%)
馬単:25%(払戻率75%)
3連複:25%(払戻率75%)
3連単:27.5%(払戻率72.5%)
WIN5:30%(払戻率70%)
ご覧のように、当たりやすい買い方ほど控除率が低く、当たりにくい買い方ほど控除率が高くなっています。
控除率が高い=払戻金にあてる金額が少ない、ということですから、当たりにくい馬券に高い控除率を設定することは馬券を売る上で逆効果のように思えますが、そのカラクリについては豆知識のコーナーで解説します。
ところで、先ほどの複勝式の解説の中で、複勝式の配当が少ないのは控除率の仕組みが関係している、と述べました。
上で示したとおり、中央競馬では単勝式、複勝式ともに控除率は20%と設定されています。これだけ見れば単勝式も複勝式も条件は同じですし、馬券の売上額を見ると、単勝式よりもむしろ複勝式の方がたくさん売れていたりします(2021年度データ)。
なぜ単勝式に比べて複勝式の配当が少ない(オッズが低い)のかというと、それは単勝式に比べて複勝式の馬券的中者の方が数が多いからです。
詳しくは以下の記事で解説していますが、当然ながら複勝式の方が単勝式よりも当たる確率は高くなるわけですから、複勝式を当てる人の数も必然的に多くなります。
仮に控除率という仕組みがなければ、的中者の数が多かったとしても配当が極端に少なくなることはないでしょう。
しかし実際は、控除率の効果によって馬券が売れれば売れるほど主催者に配当を削り取られ、残った金額を大量の馬券的中者で奪い合う形になってしまうのです。
馬券の投票数に応じてオッズが変動するパリミュチュエル方式の日本競馬では仕方がない現象と言えますが、イギリスのブックメーカーであれば少しは複勝式の配当にも希望が持てるかもしれません。
パリミュチュエル方式とブックメーカーについては、以下の記事をご覧ください。
(豆知識)競馬以外のギャンブルにおける控除率
日本の競馬の控除率は、競馬法により最大30%までと定められていますが、その他のギャンブルではどのくらいの控除率が設定されているのでしょうか?
全てではありませんが、代表的なギャンブルの控除率を以下に示します。
<ギャンブルごとの控除率>
渡辺隆裕監修「競馬の経済学」より
日本の競馬:最大30%(単勝式 20%、WIN5 30%など)
日本の宝くじ:54.6%
(アメリカン)ルーレット:5.3%
1$スロットマシン(ラスヴェガス):4.2%
25¢スロットマシン(ラスヴェガス):4.7%

ラスヴェガスなどのカジノのルーレットでは、1から36までの目のほかに「0」と「00」の目があり(計38個)、「赤」か「黒」かのどちらかに賭けて0か00の目に玉が入ると賭け金は没収されるので、38分の2の確率、すなわち控除率5.3%で主催者が収入を得ることになります。ちなみに、どれか1つの番号に賭ける場合も同様に控除率は5.3%です。
ルーレットの控除率を見てしまうと、競馬の控除率(30%)がかなり大きく見えてしまいます。
しかし、競馬よりもさらに控除率の大きいギャンブルが「宝くじ」です。
なんと、日本の宝くじの控除率は54.6%で、売上げの半分以上も販売元(地方自治体)の収入になるのです。逆に言えば、当せん金として宝くじ的中者に交付される金額は売上げの半分以下だということです。
ですから、宝くじは競馬よりもずっと儲かりにくいギャンブルだと言えます。
なぜ儲かりにくい宝くじを買う人がたくさんいるのか?
それは、「リスク選考理論」という経済学の原理によるもので、大金が当たるのであれば払戻率が小さくても(控除率が大きくても)賭けに参加したくなるからです。
この原理によって、宝くじのように「当たりにくいけど当たった時の配当がバカでかい」というギャンブルは、一般的に控除率が大きくなる傾向があります。控除率を大きくしないと、莫大な配当を支払うことによって主催者が損をしてしまうからです。
馬券の中でも、1億円を超える配当が出ることもあるWIN5(ウィンファイブ)に関しては、上限ギリギリの30%という控除率が設定されています。
5つのレースの1着馬を全て当てなければ的中とならない、もっとも当たりにくい馬券のWIN5というのは、高い控除率と引き換えに、「もしかして1億円が当たるかも・・・」という夢を与えてくれるファンにとって魅力の大きい馬券なのです。
参考書籍
「近代日本の競馬-大衆娯楽への道」(杉本竜著、創元社)
「競馬の経済学」(渡辺隆裕監修、カンゼン)
「知っておきたい競馬と法」(大蔵省印刷局)
参考サイト
日本中央競馬会(JRA)
宝くじ公式サイト