
英語の第3回は、競馬用語解説。
今回は、「group」「grade」「listed」の3つの用語について、中学生でも理解できるよう分かりやすく解説していきます。
group(グループ)

「group(グループ)」は、和訳すると「群れ」とか「集団」といった意味になりますが、競馬レースに関して「group」と言ったときには、ヨーロッパ競馬における重要なレースの格付けを表す言葉になります。
日本にも「重賞レース」という重要なレースがありますが、後ほど述べるとおり、日本の重賞レースは「group」ではなく、「grade(グレード)」が格付けを表す言葉になります。
つまり、ヨーロッパと日本ではレースの格付けを表す言葉――グループか、グレードか――が異なるのです。
ヨーロッパの重要なレース――ここではあえて「重賞レース」とは呼びません――は、格式やレースレベルの高い順にグループ1(group1)、グループ2(group2)、グループ3(group3)に分類されます。
例えば、日本でも有名な凱旋門賞(フランス)やイギリスダービーなどはグループ1に分類されます。
そうです。
我々が「GⅠ(ジーワン)」とか「GⅡ(ジーツー)」と呼んでいるレースは、ヨーロッパでは「グループ1」とか「グループ2」と呼んでいるのです。
ただし、ヨーロッパでもグループ1やグループ2を「G1」や「G2」などと省略したりしますので、結果的に、ヨーロッパのグループ1のレースを日本と同じ感覚で「ジーワン」と呼んでも意味は伝わります。
そもそも、なぜ競馬レースに格付けが必要なのでしょうか?
理由の1つは、競馬レースに馬を出走させる馬主や調教師に対して、どのレースがレベルが高くて、賞金が多いのかを示すためです。
強い馬であれば格付けが上位のレース(グループ1やグループ2)に出したいですし、実力が劣る馬であれば、より勝つ確率の高い格付けが下位のレース(グループ3やそれ以下の格付けのレース)に出したいわけです。
理由のもう1つは、馬(サラブレッド)を売ったり買ったりする時に、その馬自身やその近親の馬がどんな格付けのレースを勝ったのかを示すためです。
このことを「black type(ブラックタイプ)」といいます。
サラブレッドをセリにかける際に作成する名簿(catalogue)に、グループ1など格付けの高いレースを勝った馬の名前を黒太文字(black type)で記載することから、こう呼ばれています。
つまり、セリ名簿を見て買いたい馬を探す時に、近親(兄弟や子供など)にブラックタイプ(黒太文字)の馬――格付けが高いレースを勝った馬――がたくさん書かれていればいるほど、その馬は血統が良くていい成績を残す可能性がある、というふうに目星をつけることができるのです。
この時に問題となってくるのが、「レースの格付けを誰が行うのか?」という点です。
先ほど述べたとおり、レースの格付けによって馬の市場価値が左右されるわけですから、例えばレースの格付けを不当に高くしてしまうと、馬の市場価値も不当につり上がってしまうことになります。
これが国内だけの話であれば、国内の市場原理によって勝手に是正されていくでしょう。
しかし、国際的な取引き(貿易)をする場合は、各国で自分勝手にレースの格付けをしてしまうと「なんでおたくのG1馬はこんなにレベルが低いんだ?詐欺じゃないか!」「いや、おたくの馬こそG3すら勝っていないのに高すぎるだろ!」といった不公平な取引きが行われることになりかねません。
そこで、1971(昭和46)年にヨーロッパのイギリス、アイルランド、フランスの3カ国が話し合って、各国共通の基準でレースの格付けを行うようにしました。
それが、先ほど解説したグループ制(group1,group2,group3)による格付けです。
つまり、1971年よりも前のヨーロッパのレースでは、グループ1(G1)やグループ2(G2)といった格付けはなされておらず、各国が独自に自国のレースを格付けしていたわけです。
その後、1973(昭和48)年にはイタリアとドイツ(当時の西ドイツ)もグループ制の格付けに加わりました。
grade(グレード)

一方、当時の日本はというと、国際的な取引きに加われるほど競馬のレベルは高くありませんでしたので、格付けについてはもう少しあとの話になります。
ヨーロッパに続いてレースの格付けに着手したのが、アメリカ合衆国でした。
1973(昭和48)年、アメリカとカナダ(北米)はヨーロッパにならって自国の重要なレースを3つのカテゴリーに分類しました。
これが、「grade(グレード)」制です。
すなわち、格式やレースレベルの高い順にグレード1(grade1)、グレード2(grade2)、グレード3(grade3)に分類したのです。
なぜ「グループ」ではなく「グレード」にしたのかについてはよく分かりませんが、全く同じ制度にしなかったのはアメリカらしい感じがしますね。
アメリカがヨーロッパと違ったのは呼び方だけではなく、ハンディキャップレース――馬の能力に応じて負担重量によるハンディキャップをつけるレース――もグレード制に組み込んだことです。
ヨーロッパはハンディキャップレースを「レベルが低いレース」と位置付けていましたが、「レースは盛り上がらなければダメ」と考えるアメリカは、格式高いレース――今でいうところのG1レース――にもハンディキャップレースを多数採用していたのです。
そして、いよいよヨーロッパと北米の格付けを統合する時が来ます。
1983(昭和58)年、国際セリ名簿基準委員会(ICSC)が設立され、ヨーロッパのグループ制と北米のグレード制を共通の基準で格付けしようということに決まったのです。
ここで導入されたのが、「part(パート)」制です。
すなわち、ICSCが世界の競馬開催国をレベルの高さに応じてパートⅠからパートⅢまでに分類し、1987(昭和62)年以降、競馬先進国であるパートⅠ国の重要なレース(グループ競走またはグレード競走)のみ国際重賞(G1、G2、G3)として扱われることになったのです。
日本は、このタイミングでようやく自国レースの格付けに着手します。
というのも、1981(昭和56)年にJRAの国際招待競走「ジャパンカップ」が創設され、外国馬が日本のレースに出走するという国際化の時代が始まっていたためです。
そして、ついに1984(昭和59)年、日本のJRAは北米と同じグレード制を導入して、天皇賞や日本ダービーといった”重賞レース”を格式やレースレベルの高い順にGⅠ、GⅡ、GⅢに分類しました。もちろん、この「G」というのは「GRADE(グレード)」の頭文字です。
ところが、日本には厳しい現実が突き付けられます。
ICSCによって日本はパートⅡ国に分類されてしまったのです。ヨーロッパや北米などのパートⅠ国から「お前はまだ早い!」と半ば仲間外れにされたのですね。
しかし、これも仕方ありません。当時の日本は、客観的に見ても欧米には遠く及ばないレベルの競馬を行っていたのです。だからこそ、ジャパンカップの創設やグレード制の導入など、国際化の流れに必死でついて行こうとしていました。
ちなみに、グレード制導入によってジャパンカップは「GⅠ」に格付けされましたが、日本はパートⅡ国のため、ジャパンカップは国際的に”G1(グレード1)”の扱いを受けることができませんでした。しかし、競馬関係者の努力や制度変更もあって、1992(平成4)年にパートⅡ国でありながらジャパンカップが国際G1に認定されます。これにより、海外の一流馬がジャパンカップに次々と出走してくれるようになったのです。
そんな日本競馬界の努力が実り、2006(平成18)年、グレード制導入から22年かかってようやく日本がパートⅠ国に加わることが決定しました(翌年パートⅠに昇格)。
これに伴い、日本の重賞レース(GⅠ、GⅡ、GⅢ)が、国際的にも欧米のグループ/グレード競走と同等に扱われるようになったのです。すなわち、日本の「GⅠ」は、欧米の「G1」と同義になったということです。
これ以降、日本独自のレースの格付けが自動的に国際的な格付けと一致することになるのですが、日本競馬はICSCに代わって設立された国際格付け番組企画諮問委員会(IRPAC)の監督下に入り、同時に日本国内にも日本グレード格付け管理員会を発足させて、JRAと地方競馬のレースを格付けする際は同委員会が国際基準に照らして客観的に評価することになりました。
JRAと地方競馬の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
なお、地方競馬にも重賞レースがありますが、国際的にG1(国内でいうところのGⅠ)として認められているのは大井競馬場で年末に開催される東京大賞典のみです。
それ以外の地方重賞についてはJpnⅠ、JpnⅡ、JpnⅢなどの国内のみで通用する格付けが行われています。
listed(リステッド)

ここまで「グループ制」と「グレード制」というレースの格付けについて解説してきましたが、これらの格付けを受けていないレースの中にも国際的に重要なレースが存在します。
すなわち、国際的にG1、G2、G3のいずれにも認定されていないレースのうち、これらに次ぐ重要なレースとして国際的な評価を受けるレースが「listed(リステッド)」競走です。
先ほど「ブラックタイプ」という制度について解説しました。サラブレッドのセリ名簿において国際G1、G2、G3の1~3着に入った近親馬の名前を黒太文字で強調表示してよいとされる制度ですが、実は、パートⅠ国のリステッド競走についても同様にブラックタイプが適用されます。
記事の冒頭から欧米のG1、G2、G3を「重賞レース」とは言わず、あえて「重要なレース」と言っていたのは、リステッド競走の存在があったからです。
すなわち、欧米の重要なレース――ブラックタイプが適用されるレース――はグループ/グレード競走(G1、G2、G3)とリステッド競走に大別され、広義ではリステッド競走も「重賞レース」と言えるからです。
しかしながら、日本においては慣習的にGⅠ、GⅡ、GⅢの3カテゴリーのみを「重賞レース」と呼んでおり、リステッド競走のことは「重賞レース」と呼びません。
それもそのはず。
日本でリステッド競走を格付けするようになったのは2019(令和元)年から。グレード制導入から35年、パートⅠ国になってから12年も経った後のごく最近の話なのです。
ですから、日本国内では唐突に新しいカテゴリーのレースができたという印象が強く――実際はずっと昔から国際的な格付けとして存在していた――リステッド競走は「重賞レースよりも格の低いレース」「準重賞」というイメージが定着してしまったのです。
実際、初めて日本でリステッド競走の格付けを行う際には、「オープン特別」と呼ばれる”非重賞レース”の中からより重要なレースを選定して格付けが行われています。
このような複雑な事情もあり、一言に「重賞レース」といっても、それは日本国内における狭義の重賞レースのことなのか、それとも、国際的な格付けにおける広義の――リステッド競走も含めた――重賞レースのことなのか、区別が必要です。
ちなみに、パートⅡ国のグループ/グレード競走(かつての日本の重賞レースなど)は、パートⅠ国のリステッド競走と同列に扱われます。
また、パートⅠ国であっても国際的な格付けを受けていないグループ/グレード競走(地方競馬のJpnⅠ、JpnⅡ、JpnⅢなど)は、条件によってその国のリステッド競走としての格付けを受けることもあります。
いずれにしても、国際的なレースの格付けとしては、日本を含むパートⅠ国のグループ/グレード競走がトップ(その中でもトップはG1)に君臨し、その下にパートⅠ国のリステッド競走があって、その他のレースは全てそれ以下の評価であるということです。
参考書籍
「海外競馬完全読本」(TISほか著、東邦出版)
「日本中央競馬会50年史」(日本中央競馬会)
参考サイト
日本中央競馬会(JRA)
東京シティ競馬
ラジオNIKKEI
国際競馬統括機関連盟(IFHA)