【コラム】ライトバックが「ハミ抜け」して放馬したらしいけど、どういうこと?【新潟記念2024】

【コラム】ライトバックが「ハミ抜け」して放馬したらしいけど、どういうこと?【新潟記念2024】

私はそのときYouTubeのライブ配信をしていました。

間もなくレースが始まるという15:42頃、出走馬12頭の名前を読み上げて、目の前にあるテレビに目線を移した瞬間、思わず「えっ!?」と大声を上げてしまいました

ライブ配信を見ていた人を驚かせてしまったかもしれず、申し訳なかったのですが、何しろ、テレビに映っていたのがあまりも衝撃的な光景で

そう、新潟記念で1番人気に推されていたライトバックが、鞍上の坂井瑠星騎手を振り落として放馬。そのあともライトバックは爆走し、自分で転んでヘッドスライディングしながら正面スタンド前の外ラチに激突してしまったのです。

絶句する私は、ふと我を取り戻してライブ配信を続けたのですが、その後もライトバックは立ち上がって正面スタンド前の大観衆の前を爆走し、ポールやロープなどにガンガン体をぶつけながら走り去っていきました・・・。

茶木調教師によると「ハミが抜けてしまった」とのこと

ライトバックの放馬→競走除外により、26億円以上の馬券が返金されることになりました。

何より人馬の無事を祈るところですが、映像を見る限り大きな怪我ではないように見えましたので、そこはひと安心。

しかし、なんでこんなことに。

ライトバックを管理する茶木調教師によると、

「(返し馬の後に)ゲートに寄らなくなり、係の人に引っ張ってもらったのですが、その時に馬が反抗し、ハミが抜けてしまいました。その後も坂井騎手は乗ってくれたのですが加速した際に危険なので飛び降りたとのことです」

茶木太樹調教師のレース後コメント(出典:netkeiba)

要するに、馬が言うことを聞かなくなり、騎手が身の危険を感じて自ら馬を飛び降りた、ということです。

2024.9.2追記
 その後の報道や坂井瑠星騎手のX(旧Twitter)から詳しい状況がわかってきました。
 今回のライトバックの放馬は、「ハミが抜ける」というよりは、「物理的にハミが外れた」というのが真相のようです。つまり、手綱は頭絡(頭の周りにくくりつけられたヒモ)にだけ接続された状態となり、ハミは馬の口から出てしまっている状態です。ハミが口から外れるくらいですから、頭絡もかなり緩んでしまった状態だったと思われます
 実際、坂井騎手が落馬したあとのライトバックの写真を見ましたが、頭絡は完全に馬の頭から外れて落っこちている状態でした。
 ですので、坂井騎手は、もはや裸の馬にしがみついている状態で馬が暴走したというわけですので、相当な恐怖だった思います。
 以下の説明は、いわゆる「ハミが抜ける」ことについて述べており、ハミが物理的に外れることとは区別して述べていますので、ご注意ください。

ハミは馬と騎手をつなぐ重要なコミュニケーション手段

ハミが抜ける」とは競馬でたまに耳にする言葉ですが、そもそもはどういう意味なのでしょうか?

いろいろな情報を総合すると、騎手の感覚として馬がコントロールできていない状態のことを指すようです。

はっきり言って、馬に乗ったことがない人(自分も含め)にとっては意味がわからないのですが、ここのポイントは「騎手の感覚として」というところ。つまり、騎手が「コントロールできない」と思ったら、それは「ハミが抜ける」という状態なのです。

決して、本当に(物理的に)ハミが口から外れてしまったというのではなく、いわば「すっぽ抜ける」という感覚に近い感じのようで、これは普段から馬をコントロールできている人にしか分からない感覚かもしれません。ですから、まったく馬に乗ったことがない人が初めて馬にのって「コントロールできない」と思ったところで、それは「ハミが抜ける」ということではないのです。

なぜ「コントロールできない」という状態が「ハミ」と関連づけられるのか?それはまさに、ハミが馬をコントロールする手段に他ならないからです

騎手が馬をコントロールする理屈は複雑で簡単には説明できませんが、少なくとも、騎手が馬の上で握っているのは手綱とムチだけであることを考えると、手綱の握り方で馬をコントロールしていることは間違いないでしょう

では、手綱はどうやって馬とつながっているのか?それこそが、ハミであり、騎手はハミを通じて手綱に伝わってくる感覚で手綱の握り方を変えて馬をコントロールするのです。いわば、ハミというのは馬(動物)と騎手(人間)をつなぐ重要なコミュニケーション手段なのです。

ハミが抜けるのは車のハンドル、アクセル、ブレーキ、ギアすべて壊れたのと同じ

今更ですが、ハミとは一体なんなのか。

馬銜(はみ)とは、馬の口に噛ませる棒状の金具である。馬の口には前に上下12本の切歯があり、切歯のうしろはかなり広い歯のない部分(歯槽間縁)があり、その奥に臼歯(奥歯)が並んでいて、ちょうどこの歯のない部分に馬銜をかける。騎手の手綱さばきはこぶしから手綱を通じて馬銜に伝えられ、馬に合図を送ることができる

JRAホームページ「馬銜(競馬用語辞典)」より

ハミの写真(赤丸部分)

文字や写真だけだと分かりにくいのですが、要するに、手綱は単に馬の頭に固定しているだけでなく、馬の口に噛ませた金具(=ハミ)にも固定されているということです。

そう、競走馬は常に口の中に金具が入れられた状態で走っているのです

「なぜそんなことを?」と思うかもしれませんが、長い乗馬の歴史の中で、馬をコントロールするにはそれが一番いい方法だと考えられてのことでしょう。

「金具なんて口に入れて歯は大丈夫なの?」と思ってしまいますが、上記の説明にもあるとおり、馬の左右の歯茎には歯が生えていない部分(歯槽間縁)があり、その部分に棒状の金具を通しているので、歯はとりあえず大丈夫。ただ、口の中に異物を入れているわけなので、馬としては気持ちよくはないでしょう

上の馬の写真を見てもらえばわかるように、ハミが馬の口角をグッと後ろに引っ張っている形です。この口を引っ張られる感覚が馬に対しての信号や合図になり、馬はその合図を受けて首や脚などの体を動かし、歩く、走る、曲がる、止まる、下がるといった動作を行います。

騎手が手綱の持ち方を変える→ハミが馬に合図を伝える→馬が動く→騎手が手綱の持ち方を変える→ハミが馬に合図を伝える→・・・というサイクルをひたすら繰り返すことで馬が騎手の思いどおりに走るわけです。

では、「ハミが抜ける」とどうなるか

今回のライトバックの場合は、茶木調教師曰く「反抗」してハミが抜けたようですので、騎手が出す合図を無視または嫌がったのでしょう

坂井騎手としては、「走れ」「曲がれ」「止まれ」というつもりで出した合図に全くライトバックが応えなくなったわけですから、全くのお手上げ状態。暴走列車に一人で乗り込んだようなものです。こうなったら、坂井騎手は自身の安全のためにも、馬から飛び降りるしかありません。

想像してみてください。何気なく車を運転していたら、突如としてハンドルも、アクセルも、ブレーキも、ギアも効かなくなった状態を・・・。何かにぶつかって車が止まるか、あなた自身が車から飛び降りるしかこの状況を脱することはできません。

馬の能力を生かすも殺すもハミ次第

ハミに関する言葉でいうと、「ハミが抜ける」以外にも、「ハミを取る」「ハミを噛む」といった言葉があります。

ハミを取る」とは、基本的に良い意味の言葉で、「ハミが抜ける」の逆の意味。つまり、馬がコントロールできる状態を意味しています。この状態になると、馬が自ら騎手の言うことを聞こうという姿勢になっているため、ハミを通じて馬と騎手が綿密にコミュニケーションを取ることができます

ハミを噛む」とは、その名のとおり馬がハミをガッチリ噛んでしまって、騎手の合図が馬に伝わりづらい状態です。そういう意味では騎手にとっては「ハミが抜ける」ことと同じくらい怖い状態ですが、馬がハミを噛むことをやめてくれればこの状態は解消される分、まだマシなのかもしれません。馬が力み過ぎている時や、いわゆる「かかっている」時に起こるようで、スタミナロスにもつながります

ハミが抜けるのも、ハミを噛んでしまうのも騎手にとっては避けたい状況ですが、騎手にはどうしようもない時もあります。馬の精神状態や体調、癖(くせ)なども影響してきますので、騎手が安全に馬の能力を引き出すためには、普段からの調教や体調管理など、厩舎サイドの努力や配慮も当然ながら重要になってきます

このあたりは、騎手と厩舎サイドの連携体制も有効なのでしょう。その意味で、横山典弘騎手や岩田康成騎手の厩舎サイドとの連携した取り組みは注目に値します。今回のライトバックは、果たしてどんな連携をとっていたのでしょうか?気になります。

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