レースから2週間経ちましたが、ようやく日本ダービーのレース回顧の記事を書いています。
レース直後の高ぶった気持ちもすっかり収まった今となって思い返してみると、競馬の難しさ、そして、日本ダービーが「運が一番強い馬が勝つ」と言われている所以をあらためて思い知ったレースでした。
絶対的な人気を背負って2冠を逃したジャスティンミラノ、そして、発走除外から見事に立て直して9番人気ながらダービーを勝ったダノンデサイル。この対照的な運命となった2頭にとって、一体どこが勝負の分かれ道になったのでしょうか?
日本ダービー2024 レース結果
こちらが日本ダービー2024の全着順です。
皐月賞馬ジャスティンミラノの無敗での2冠制覇が期待された日本ダービーでしたが、なんと9番人気のダノンデサイルが勝ちました。勝ちタイムは2分24秒3。
2着にジャスティンミラノが入り、2冠は逃したもののこの馬の強さは示しました。3着に7番人気のシンエンペラーが入り、上位3頭を皐月賞組が独占しましたが、皐月賞発走除外の馬と5着の馬が上位に来たことで、3連単229,910円という高配当のレースとなりました。
- 優勝馬ダノンデサイルのプロフィール
- 父 エピファネイア
母 トップデサイル(母父 Congrats)
馬主 ダノックス
生産者 社台ファーム
調教師 安田翔伍(栗東)
通算成績 5戦3勝(24’GⅠ日本ダービー、24’GⅢ京成杯)
日本ダービー2024 レース展開
スタートで立ち遅れてしまったのは6番コスモキュランダ。そして、前走皐月賞で大出遅れをしてしまった17番ビザンチンドリームは比較的うまくゲートを出ることができました。
逃げ馬メイショウタバルが出走取消となり、果たしてどの馬が逃げるのか注目でしたが、5番ダノンデサイル、11番シュガークン、そして大外18番エコロヴァルツの3頭が先行争いを見せました。一方、前に行くかと思われた1番サンライズアースは最後方まで下げていきます。
15番ジャスティンミラノは中団からやや前の外目、13番シンエンペラーは中団の馬群の中に入り、17年ぶりの牝馬によるダービー制覇を狙う2番レガレイラは、予想どおり後方待機の戦法です。
第1コーナーにかかると、5番ダノンデサイルはスッとポジションを下げ、外から来た18番エコロヴァルツにハナを譲りました。そして、2番手にシュガークンがついて、ダノンデサイルは3番手の内でじっくり脚を溜めることに成功したのです。
15番ジャスティンミラノは4番手の外目で、思いのほか早めのポジションに。逆に、前目につけるかと思っていた13番シンエンペラーはジャスティンミラノよりも後ろ、中団の位置になりました。
ここで隊列が縦長になりましたが、各馬の様子を見た感じで、早くもスローペースに落ち着いたように思われました。
向正面に入ってもほぼ隊列は変わらず。
18番エコロヴァルツが逃げてスローペースに落とし込み、最初の1,000mは62秒2。このラップタイムを計測した瞬間、出遅れて後方にいた6番コスモキュランダとミルコ・デムーロ騎手が外からまくって先団に取りつこうとします。
この動きを見た最後方の1番サンライズアースと池添謙一騎手も連れて外から上がっていきました。
後方にいた2番レガレイラとクリストフ・ルメール騎手は、最内に馬が閉じ込められて身動きができない状態。このスローペースの中でも、直線で外に出すしか術がない状況でした。
第3コーナーをカーブすると、一気に外からまくってきた1番サンライズアースが先頭の18番エコロヴァルツ、そして11番シュガークンに並びかけ、3頭が並んだ状態で第4コーナーに向かっていきます。さらに、先に動いた6番コスモキュランダも15番ジャスティンミラノの外に並びかけ、直線でマッチレースに持ち込もうという態勢に。
一方、5番ダノンデサイルはマイペースを守り、相変わらず最内でジッと脚を溜めています。
13番シンエンペラーは、いつもそうなのですが、この各馬の動きについていけずに勝負所でポジションを少し下げてしまいました。2番レガレイラも後方のままです。
先頭の3頭が並んで直線に向くと、いったん18番エコロヴァルツが先頭に立ちますが、そのすぐ外にいた11番シュガークンが持ったまま絶好の手ごたえでエコロヴァルツに並びかけます。
一方、その直後にいた15番ジャスティンミラノは早くも戸崎騎手が追い出しを始め、前の2頭を捉えようとスパートしました。
そして、最内でジッとしていた5番ダノンデサイルは、エコロヴァルツの内、ラチ沿いの1頭分の隙間を見つけた横山典弘騎手のゴーサインに合わせてインを突いてきます。
13番シンエンペラーは4コーナーで一気に後方までポジションを下げてしまいましたが、馬群を割って追い込むことを選択。2番レガレイラは、やはり大外に出して追い込む態勢です。
残り400mを切ると、11番シュガークンが先頭に立ちますが、18番エコロヴァルツも粘ります。
すると、最内から素晴らしい脚で5番ダノンデサイルが一気に突き抜けて先頭に。そして、15番ジャスティンミラノもシュガークンとエコロヴァルツを外から交わしてダノンデサイルを追いかけますが、ダノンデサイルには並ぶことができません。
ダノンデサイルは加速が止まらず、あっという間に後続をちぎってそのまま先頭を譲らずに1着でゴール。ジャスティンミラノも諦めずに追いかけましたが、まさかの末脚に屈して2馬身差の2着に。
3着には、馬群を割って猛然と追い込んできた13番シンエンペラーが入り、「大外まくり」から粘り込んだ1番サンライズアースが4着に、そして、大外から最速の上がり(3F33秒2)で追い込んだ2番レガレイラがなんとか5着に入りました。
3番人気の12番シックスペンスは直線伸びずに9着と惨敗。皐月賞2着の6番コスモキュランダも出遅れが響いたのか、6着に敗れました。
YouTubeのレース映像もぜひご覧ください。
日本ダービー2024 主な出走馬の短評
- ダノンデサイル(1着)・・・まさかの強さ。あそこまでジャスティンミラノを突き放すとは想像できず。内ラチ沿いを走って距離ロスが少なかったこともあるが、それにしても皐月賞発走除外からこの走りは異次元だった。発走除外のきっかけを作った横山典弘騎手の判断は間違っていなかったし、それがダービー制覇につながったのは素晴らしい。潜在能力を引き出した厩舎の調整力も見事。血統的に秋は天皇賞が向くかもしれないが、個人的には菊花賞で見てみたいし、ダノックスさんなら、クラシック(菊花賞)の夢を追うのではないか。以下は、横山騎手のレース後コメント。
展開は、前に行く馬がいなくなりペースが普通か遅くなるかと思っていて、スタートさえうまく決められれば行ってもいいくらいの気持ちで出していきました。岩田康誠騎手(エコロヴァルツ)が行ってくれたのでちょうどいいポケットに入れて、直線までじっとできたので、最後はよく弾けてくれました。
ダービーを勝ったことは嬉しいですが、皐月賞での自分の決断(競走除外)が間違っていなかったのだなと。厩舎スタッフとそこから立ち上げて、ああいうことがあっても馬は大事にしていれば応えてくれるというのは、馬に感謝です。
(皐月賞からここまで)違和感がない、ちゃんとした攻め馬ができるか、調教師と話しながら組み立ててきました。まだいい時のダノンデサイルの走りではないですが、この前よりはだいぶ良かったので、自信を持って競馬に臨めました。
(史上最年長制覇について)あまり気にはしていないのですが、GIは乗ることも大変ですし、まさか勝てるとは…。馬に真摯に向き合ったことが結果に結びついてくれたので、この上ない喜びです。きょうは安田翔伍調教師の家族がみんな来ていると聞いていて、その中で調教師の晴れ姿を見せることができてホッとしています。
(今後について)これからまた無事に走ってくれることを願うだけです
横山典弘騎手レース後のコメントより(netkeiba.com)
- ジャスティンミラノ(2着)・・・完璧な騎乗、横綱競馬。しかし、勝てなかった。勝った馬をほめるしかない。内に入ったダノンデサイルと比べて、外々を回された不利もあった。結果的に距離が長かったかも。秋は天皇賞だろう。能力は間違いないので、ジャンタルマンタルとのハイレベルな再戦を見たい。
- シンエンペラー(3着)・・・見込みどおり強さを見せてくれたが、位置が後ろ過ぎた。出負けは痛かったし、やはり勝負所(3~4コーナー)でのスピードアップについていけない。パドックの状態もよかった。秋は欧州遠征とのこと。距離延長と3~4コーナーの下り坂はこの馬にプラスだと思っていたので、菊花賞で見てみたかった。
- サンライズアース(4着)・・・能力は高いが精神的な幼さが足かせだった。それを池添騎手はうまくコントロールして能力を引き出した。また、馬自身も成長していた。レイデオロ産駒は晩成傾向かも。スローペースでまくって先頭に立ち、よく粘った。スタミナがありそうなので、今後の成長も含めて菊花賞が楽しみ。
- レガレイラ(5着)・・・17年ぶりの牝馬によるダービー制覇ならず。パドックもよかったし、よく追い込んだ。調子は戻っていたが、いかんせん後ろ過ぎた。もっと成長したいが、やはり早熟?牡馬のレベルも高かった。ルメール騎手は、2021年ダービー5着のサトノレイナス(牝馬)の再現になってしまった。
- コスモキュランダ(6着)・・・出遅れが痛かった。スローペースでまくり気味に行ったが、脚が残っていなかった。モレイラ騎手は「スタミナがある馬」と言っていたが、菊花賞は大丈夫?
- シュガークン(7着)・・・直線では手ごたえ良さそうに見えたが、武騎手のコメントどおり、現状はここまでか。菊花賞が楽しみ。どこまで成長できるか。
- シックスペンス(9着)・・・距離が長かったか。体形的にはマイル向きに見えた。能力は高いはず。
- アーバンシック(11着)・・・スローペースで位置が後ろ過ぎた。状態は悪くなかったし、京成杯でダノンデサイルといい競馬をしていたので能力はあるはず。スワーヴリチャード産駒なのでレガレイラと同じく早熟の懸念も。
今後の見どころ
結果的に今年の牡馬クラシックはジャスティンミラノとダノンデサイルが2冠を分け合う形になりましたが、あの皐月賞の発走除外がなければ、もしかするとダノンデサイルが2冠をとっていたかもしれない・・・と思わずにはいられないほど、ダノンデサイルの強さが際立った日本ダービーでした。
ダノンデサイルは、確かに2歳時は新馬戦で負けたり、未勝利勝ち後もシンエンペラーに負けたりして、当時はまさかその後にダービーを勝つ馬になるとは思いませんでした。しかし、3歳に入って1月の京成杯を鮮やかに勝った時点で、その芽は出てきていたということでしょう。昨年もソールオリエンスが京成杯勝ちから皐月賞を勝ったように、このレースは今後出世レースになるのかもしれません。
しかし、そのソールオリエンスは皐月賞を勝ってから伸び悩んでいます。そして、過去にはダービーで一世一代の走りを見せた後に、「あれっ?」と思うような残念な成績を残す馬もいました。ダノンデサイルには、今後のさらなる成長が必要になりますが、京成杯から4か月後のこの大舞台でこの強さを見せたということは、成長力に十分期待できると思っています。
ダノンデサイルは、秋に天皇賞と菊花賞の2つの選択肢がありますが、私としてはぜひクラシック2冠を狙ってほしいと思っています。ダービーの走りを見ると騎手の指示に従順でコントロールもしやすそうですので、長丁場の菊花賞でも頑張ってくれるのではないでしょうか。
秋の天皇賞には、おそらく今回2着に負けてしまったジャスティンミラノも照準を当てているでしょう。そして、この世代でもう1頭忘れてはいけないのがNHKマイルカップの覇者ジャンタルマンタル。ジャンタルマンタルは富士ステークスからマイルチャンピオンシップに向かうローテも考えられますが、皐月賞の走りを見ると天皇賞でも十分通用するのではないかと思ってしまいます。この2頭の再戦は個人的にぜひ見てみたいですね。
そして、菊花賞で楽しみになったのは、キタサンブラックの半弟シュガークンと、今回ダービー4着と大健闘したサンライズアース。2頭とも実力的にはこれからの馬ですが、スタミナがありそうですし、この夏の成長次第ではダービーからの逆転で最後の1冠を狙える馬だと思います。
一方、ダービーに果敢に挑戦した牝馬のレガレイラは、おそらく菊花賞には進まないはずですから、秋は秋華賞を狙う・・・と言いたいところですが、レガレイラの馬主サンデーレーシングにはオークス馬のチェルヴィニアと桜花賞2着のアスコリピチェーノもいます。昨年のブレイディヴェーグのように、2頭との「使い分け」ということでエリザベス女王に照準を合わせているかもしれませんね。
YouTube動画
以下のYouTube動画で今回の日本ダービーの解説をしていますので、ぜひご覧ください!