先週は牝馬クラシックの1冠目、GⅠ桜花賞が開催されました。
桜がきれいに咲き誇る中、阪神競馬場では乙女たちの熱戦が繰り広げられたのですが、結果は、やはり2歳牝馬チャンピオンと準チャンピオンのワンツーフィニッシュとなりました。
さて、今回はその桜花賞の回顧をします。
今回は、人気の一角として推されながら惨敗してしまったチェルヴィニアの敗因と今後について考察しました。
レース展開
外枠でしたが、やはり14番ショウナンマヌエラが積極的にハナを奪いにいきました。そして、4番キャットファイトも予想どおり先行争いに加わります。
8番コラソンビートは、思いのほか前の方にポジションを取りに行きました。他の人気馬たちとの末脚勝負では分が悪いと判断したのでしょうか。
そして、1番人気の9番アスコリピチェーノは予想どおり中団の位置に。2番人気の12番ステレンボッシュはモレイラ騎手に導かれてアスコリピチェーノの後ろでピッタリマーク。
極端に内と外の枠からスタートした人気馬の2頭、3番人気の2番クイーンズウォークと4番人気の18番チェルヴィニアは、無理な動きをせずに流れに沿って中団に位置取りました。
6番人気の7番スウィープフィートと7番人気の11番ライトバックは、最後の末脚勝負にかけるべく最後方です。
結局、14番ショウナンマヌエラが引っ張る形になり、4番キャットファイトはその後ろに控えました。前走で逃げ切り勝ちを収めていた10番セキトバイーストと15番エトヴプレは、今回は先団で逃げ馬を見る形です。
2番クイーンズウォークが最内に閉じ込められて苦しい競馬をしている一方で、9番アスコリピチェーノと12番ステレンボッシュは馬群の中で脚をためながら「どこで外に出そうか?」という絶好の態勢。18番チェルヴィニアは外々を回されながら、徐々に前の方にポジションを上げていきます。
11番ライトバックと7番スウィープフィートは相変わらず最後方です。
14番ショウナンマヌエラを先頭に各馬が第4コーナーをカーブしていきます。
前半800mは46秒3。ほぼ平均ペースに落ち着きました。
ここで、1番人気の9番アスコリピチェーノは外に出し、ここまで完璧な態勢です。一方、12番ステレンボッシュは外のアスコリピチェーノに「蓋をされた」状態。このまま直線に入れば、ステレンボッシュは進路がなくなってアスコリピチェーノに遅れを取ってしまいます。
18番チェルヴィニアは抑えきれない感じで外から先頭集団に並びかけました。
11番ライトバックと7番スウィープフィートはまだ最後方です。
4コーナーから直線に向くと、馬群は一気に横に広がりました。
逃げていた14番ショウナンマヌエラはここで一杯になり(手ごたえがなくなり)、一気に15番エトヴプレが並びかけて先頭に立とうとします。
ここで1つレースの鍵となる出来事があります。
4コーナーで外に出して勝ちパターンに入っていた9番アスコリピチェーノに、その内で閉じ込められていた12番ステレンボッシュが馬体をぶつけて進路をこじ開けたのです。しかも、ステレンボッシュのモレイラ騎手は、自らの進路を確保するだけでなく、ライバルのアスコリピチェーノを外に弾き飛ばしてその隙にステレンボッシュをより有利なポジションに押し出すという「一石二鳥」の騎乗技術を見せたのでした。
いつの間にかアスコリピチェーノとステレンボッシュの優勢が逆転する中、その後方ではもう1つの出来事が起こっていました。
最後方にいた11番ライトバック(坂井騎手)と7番スウィープフィート(武豊騎手)は思惑が一緒だったのか、直線に向くと2頭とも大外に出そうとしました。しかし、より早く仕掛けたライトバックに進路を取られて、スウィープフィートは17番マスクオールウィンの後ろで進路を失ってしまいます。
15番エトヴプレが直線で先頭に立ち、前走フィリーズレビューのように粘り腰を見せます。
9番アスコリピチェーノは外に振られた影響で加速が遅れ、阪神ジュヴェナイルフィリーズのような伸びがなかなか見られません。一方、そのアスコリピチェーノを出し抜いた形の12番ステレンボッシュはモレイラ騎手に導かれて、徐々に、しかし確実に脚を伸ばしてきました。
直線入口で明暗が分かれた11番ライトバックと7番スウィープフィートですが、前が開いたライトバックは大外から素晴らしい脚で追い込んできます。一方、スウィープフィートも猛然と追い込みますが、なかなか進路が開かず、残り200m過ぎてようやく大外に出して再加速しました。
「またしてもエトヴプレが逃げ粘るか?」と思いましたが、残り100mで馬場の真ん中を真っすぐに伸びたステレンボッシュが先頭に立ち、そのまま後続を振り切って1着でゴール!
2着には、ようやくステレンボッシュを追いかけて上がってきたアスコリピチェーノが入り、外から最速の上り32秒8(!)で追い込んだライトバックが3着に入りました。
進路取りに泣いたスウィープフィートはそれでも4着に入り、エトヴプレもなんとか粘って5着に入る健闘ぶりを見せています。
一方で、人気の2番クイーンズウォークは8着、18番チェルヴィニアは13着、コラソンビートは16着と、なんとも予想しがたい惨敗3連発となってしまいました。
レース映像はこちらをご覧ください。
各馬の評価と今後
勝ったステレンボッシュですが、レース前、私は「評価が難しい馬」という印象を持っていました。なぜなら、昨年暮れの阪神ジュべナイルフィリーズ(阪神JF)で確かに2着に入っているものの、同レースを勝ったアスコリピチェーノとは能力の差が見て取れたのです(あくまで「マイルでは」です)。そのため、オークスでは逆転できるかもしれないけど、桜花賞を見ないとステレンボッシュの能力を図るのは難しいと思っていました。結果的には、ステレンボッシュの能力に間違いがなかったことが桜花賞で証明されたことになります。いわずもがな、モレイラ騎手の好騎乗もこの馬の勝利につながりました。
桜花賞が久々の競馬(4か月ぶり)で、さらに前走から6kgも馬体重が減っていたことも、私がステレンボッシュの評価を落とした要因です。しかし、パドックで見るとむしろ素晴らしい馬体に見え、普段よりも気合が入っているように見えました。つまり、桜花賞に向けて心身ともにしっかり仕上げてきたということでしょう。
これでステレンボッシュの牝馬3冠に向けた視界が良好になったように思えます。あとは、しっかり仕上げた桜花賞の反動を抑えて、2冠目のオークスに向けてうまく調整するだけでしょう。そんなことを私が言わなくても、管理するのはアパパネとアーモンドアイで2回も牝馬3冠を達成している国枝栄先生ですから、そこは心配無用です。
2着のアスコリピチェーノは、「やはり強かった」という印象ですが、今回はステレンボッシュとモレイラ騎手にしてやられた、という感じです。パドックでも落ち着きぶりを見せていました(以下の過去記事を参照)。正直、もう1度レースをすれば逆転できる可能性があると思っています。しかし、2度ないのがクラシックレースというものです。オークス(2,400m)は距離的に厳しいと思っていましたが、どうやら次はNHKマイルカップに出走するようです。ここでは、同世代の最強牝馬の1頭、ボンドガールとの初対戦が待っていますので、とても楽しみです。
3着のライトバックは、前走のエルフィンステークスで見せた爆発的な末脚を桜花賞でも見せてくれました。初めての阪神競馬場も問題にしませんでしたので、この馬は爆発力もありながら柔軟性もある馬だと思います。ですので、距離が延びるオークスでも十分にいいレースができるでしょう。さらに直線が伸びる東京競馬場も舞台としては合っていそうですし、ステレンボッシュにとっては手ごわい相手になりそうです。
4着のスウィープフィートは、進路取りさえうまくいけばもっと上の着順に入れたはずですが、ここは鞍上の武豊騎手を責めるよりも、進路を譲らなかった3着ライトバックの坂井瑠星騎手を褒めるべきでしょう。調教もよかったですし、今回はベストの状態で出てきていただけに、勝てなかったは痛かった。ここのところレース間隔がかなり詰まってきていますので、疲労が心配です。オークスに出る場合はそのあたりの調整が鍵でしょう。
5着のエトヴプレは、今回も見事なレースを見せました。正直マイルは距離的に厳しい(もっと短い距離がいい)と思っていましたが、今回の相手にこれだけ粘れたのはこの馬の成長ぶりを物語っています。今後は1,200m~1,400mの短距離路線で活躍してくれると思います。同じく2年前の桜花賞で好走したナムラクレアのように。
8着のクイーンズウォークは、舞台(阪神競馬場)と内枠(2番枠)がよくなかったんでしょう。500kgを超える雄大な馬体ですから、広々と走ることができる外枠、東京競馬場が合っていると思います。前にもブログで書きましたが、この馬はソングラインのような馬になる気がしています。オークスよりも来年のヴィクトリアマイルで好走を期待したいですね。
16着のコラソンビートは、まさかこんなに惨敗するとは思ってもいませんでした。鞍上の横山武史騎手は「1,600mは長かった」とレース後にコメントしていましたが、じゃあなぜ昨年の阪神JFでアスコリピチェーノやステレンボッシュと接戦を演じることができたのか?この馬は、阪神JFでもそうでしたが、引っかかり癖があり、桜花賞でもそれが出てしまいました。今回はそれに加えて、12kgの馬体重増も影響したのでしょう。単純に体が重い上に引っかかってスタミナをロスしたので、最後にバテたのだと思います。そういう意味でも短距離向きなのは間違いないですが。パドックでは悪くは見えなかったんですけどね。
チェルヴィニアはオークスで巻き返す・・・はず
そして、私が個人的に推していた馬で桜花賞を惨敗した馬がもう1頭。
その名は、チェルヴィニア。結果は、まさかの13着。
以下、掘り下げてチェルヴィニアの敗因と今後を考察していきます。
阪神外回りコースで大外枠からまくる競馬は厳しい
まず敗因として、チェルヴィニアかどうかは関係なく、そもそも阪神競馬場の外回りコースをどう乗るべきか、という問題です。
今回、チェルヴィニアは運悪く8枠18番という大外枠が当たってしまいました。
奇しくも、8枠の馬3頭は13~15着にいずれも惨敗しています。16番セシリエプラージュと17番マスクオールウィンはある意味人気どおりの結果でしたが、7枠にいた馬2頭(13番テウメッサ、14番ショウナンマヌエラ)も着外に敗れたことを考えれば、フルゲート18頭の外枠は不利だったという仮説ができそうです。
じゃあ、同じく外枠(7枠)の15番エトヴプレが5着に入ったのはどう考えるか?これについては、のちほど触れます。
次の図を見てください。コースのイラストはJRAさんからお借りしました。
ご覧いただいて分かるとおり、阪神競馬場の外回りコースは3コーナーから4コーナーまでが大きく緩いカーブになっていて、外を回れば回るほど走行距離がどんどん長くなります(距離ロスが大きくなる)。つまり、スタートから3コーナーまでの向正面の直線でいかに内側に潜り込むかが距離ロスを少なくするポイントになります。
私が何を言いたいかお分かりいただけたかと思いますが、チェルヴィニアは前にも行かず、後ろにも下げず中途半端なポジション取りとなってしまい、3コーナーから4コーナーにかけて大外を回される結果となりました。単純に、チェルヴィニアのレース運びは距離ロスが大きかったということです。
外枠スタートのレース運びとして1つの正解を示してくれたのは、エトヴプレでした。エトヴプレはスタート後の直線を使って徐々にポジション上げ、3コーナーに入る手前で2番手につけて落ち着きました。そして、距離ロスを最小限に抑えてゆっくり4コーナーまで回り、逃げる馬がバテたところで自然に先頭に立って粘り込む、というこの馬のベストの乗り方だったと思います。急遽ピンチヒッターを務めた鮫島克駿騎手はお見事でした。
私はYouTubeのライブ配信(最下部にリンクあり)の中で、チェルヴィニアについては前目につけるか、それとも後方に下げるかどちらかの展開になると予想していました。その理由の1つは、上述の距離ロスの問題があったためです。結果的に、どちらの展開にもならず、最悪のシナリオとなりました。これがルメール騎手だったら・・・というのは禁句ですかね。ムルザバエフ騎手もいい騎手ではありますが、経験という点では厳しかったのでしょう。
久々の出走による「力み」と制御不能
そして敗因としてはもう1つ。チェルヴィニア自身の精神面の問題です。
私が今回のレースでチェルヴィニアに抱いた印象は「朝日杯のシュトラウスか・・・」と。
この点については、以下の過去記事を見ていただければ幸いです。
つまり、チェルヴィニアは、朝日杯フューチュリティステークスで負けたシュトラウスのように、精神面の幼さゆえに力んで引っかかってしまい、騎手も制御不能に陥ってしまったということです。レース映像を見ると、一見そこまで引っかかっていないように見えますが、向正面から3コーナーに向かうあたりでチェルヴィニアがポジションを上げていく感じとムルザバエフ騎手の体の動きからは、人馬の呼吸が合っていないように感じます。
シュトラウスの引っかかり具合は酷すぎますが、そこまではいかなくても、明らかにチェルヴィニアは無駄な体力を使ってスタミナをロスしていました。これが、外枠の距離ロスと相まって惨敗につながったと私は見ています。
タラレバになりますが、真ん中あたりの枠からスタートして馬群の中に入れることができたら、チェルビニアも少しは落ち着いて走ることができたかもしれません。しかし、前に壁ができにくい大外枠からのスタートとなり、気合いも乗っていたのでしょう、久々の競馬に舞い上がったのかグイグイ前にいってしまい、ムルザバエフ騎手も抑えることができず結果として中途半端なポジション取りとなってしまいました。
桜花賞では、「経験不足」「久々の出走」「乗り替わり」というハンデがもろに出てしまった形のチェルヴィニア。
では、オークスでの巻き返しはあるのか?私は「巻き返しはある」と考えています。
チェルヴィニアの実力はこんなものではない
上述のように、オークスの本命はステレンボッシュです。この馬に勝つには相当のパンチ力が必要です。
しかし、本来チェルヴィニアはパンチ力を感じさせるような走りが魅力だったはず。それは、初重賞制覇となった2歳時のアルテミスステークスの勝ちっぷりから感じます。
このレースで、チェルヴィニアは桜花賞3着のライトバックや阪神JF4着のサフィラを子供扱いしています。このレースをみて、どうして桜花賞でこんな惨敗を予想できたでしょうか?
ということで、「結論ありき」になりますが、チェルヴィニアがオークスで巻き返す要因を探りました。
すると、チェルヴィニアの血統とオークスの歴史から巻き返しを予感させる事実が。
チェルヴィニアの血統はオークス向き
まず注目すべきはチェルヴィニアの血統です。
父ハービンジャーは現役時代に英国GⅠキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス(芝2,400m)を圧勝しており、産駒も芝中距離を中心に活躍しています。
ハービンジャー産駒のオークスの成績ですが、出走頭数は全部で10頭と意外にも少なく、【0-1-1-7】と勝ち星を挙げた馬はいません。しかし、掲示板に入った馬(5着以内)は5頭と出走した馬の半数を占めており、決して相性が悪いレースではなさそうです。その中でも、2017年2着のモズカッチャン、同じく4着のディアドラ、2022年4着のナミュールはオークス後にGⅠ勝利を挙げる活躍を見せています。
そして、母チェッキーノはなんと現役時代にオークス2着の実績がある馬です。馬格や毛色、レースぶりも娘のチェルヴィニアとそっくりで、チェルヴィニアも母のようにオークスでは大外から一気に追いこんでくる姿が見られそうです。
チェッキーノのオークス(勝ち馬はシンハライト)はこちら。
さらに、チェルヴィニアの半兄ノッキングポイント(父モーリス)は昨年の日本ダービーで5着と善戦しており、チェルヴィニアの血統がオークス(東京2,400m)向きであることを証明してくれています。
チェルヴィニアに重なる名牝メイショウマンボの姿
もう1つ、チェルヴィニアのオークスでの好走を予感させる事実。それは、2013年のオークスを9番人気で制したメイショウマンボの存在です。何を隠そう、1986年以降に桜花賞を二桁着順で負けた馬の中でオークスを勝った馬はたった1頭だけ。それが、メイショウマンボです。
メイショウマンボは、2歳の11月にデビュー勝ちし、次走の阪神JFは10着と惨敗しましたが、年明けのこぶし賞とGⅡフィリーズレビューを連勝し、4番人気で桜花賞に出走しました。しかし、結果は10着。4番人気で二桁着順というところはチェルヴィニアと一緒ですが、実はもう1つ共通点が。実は、メイショウマンボも桜花賞で18番枠からスタートしていたのでした。
そして、9番人気に評価を落として出走したオークスで、メイショウマンボは外から最速の上がりタイム(3F34秒6)で追い込んで見事に優勝。メイショウマンボは、さらにその後の秋華賞とエリザベス女王杯を連勝し、3歳でGⅠ3勝という快挙を成し遂げてJRA賞最優秀3歳牝馬に選出されたのでした。
メイショウマンボが勝ったオークスはこちら。
さらに血統表をみると、メイショウマンボとチェルヴィニアの血統に共通点は多く、サンデーサイレンス、Kingmambo、Danzig、Nijinsky、His Majestyといった名血が両馬に流れていることが分かります。
「こじつけ」と言われそうですが、私は、チェルヴィニアがオークスを勝てる・・・はずと思ったのでした。
桜花賞2024のライブ配信はこちら
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